念仏ねんぶつ)” の例文
旧字:念佛
うちへいったら、にわとりを三やるぞ。」と、与助よすけは、ちょうど念仏ねんぶつとなえるように、おなじことをかえしていいながらあるきました。
おおかみと人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
この一語は、彼の心の護符ごふだった。生死の境に立つと、われ知らず、念仏ねんぶつのように、また、うたいの文句のように、くちからいて出た。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしはかまどに火をたきてゐたりしゆゑすぐにゆかの下へにげ入り、ばゞさまと母さまとおとがなくこゑをきゝて念仏ねんぶつ申てゐたりといふ。
「手前こそ、今度こそは本当に念仏ねんぶつとなえるがいい。この室から一歩でも出てみろ。そのときは、手前の首は胴についていないぞ」
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あれほどねんごろな念仏ねんぶつ法門の説教絵解えときがあったにもかかわらず、まだ日本人の魂の行くさきは、そう截然せつぜんたる整理がついていなかった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何処どこか近くの家で百萬遍ひやくまんべん念仏ねんぶつとなへ始める声が、ふと物哀ものあはれに耳についた。蘿月らげつたつた一人で所在しよざいがない。退屈たいくつでもある。薄淋うすさびしい心持こゝろもちもする。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
廻沢の杉森すぎもりのあなたを、葬式が通ると見えて、「南無阿弥陀ァ仏、南無阿弥陀ァ仏」単調な念仏ねんぶつが泣く様に響いて来る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……ひとらぬが、此処こゝ老人らうじんに、みづなか姿すがたあらはすまぼろしをんな廻向えかうを、とたのまれて、出家しゆつけやくぢや、……よひから念仏ねんぶつとなへてつ、と時刻じこくた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
念仏ねんぶつの法語は繰り返して云う。弥陀みだ誓願せいがんを信ぜよ。その誓いに誤りはなく洩れはなく怠りはない。済度さいどこそは如来にょらい本願ほんがんである。救うことと如来たることとは同じ意である。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
雨垂あまだれ落ちの所に、妙な影が一列に並んでいる。木とも見えぬ、草では無論ない。感じから云うと岩佐又兵衛いわさまたべえのかいた、おに念仏ねんぶつが、念仏をやめて、踊りを踊っている姿である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わしはかまどに火をたきてゐたりしゆゑすぐにゆかの下へにげ入り、ばゞさまと母さまとおとがなくこゑをきゝて念仏ねんぶつ申てゐたりといふ。
いやその化物屋敷のような物凄い光景は、正視せいしするのが恐ろしく、思わず眼を閉じて、日頃となえたこともなかったお念仏ねんぶつ口誦くちずさんだほどでした
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
法然上人の念仏ねんぶつにふかく帰依きえして、この転機てんきを職の心に与えてくれた宗教に絶対の信仰をもち、社会政策と宗教とを一体にして、自分の管下を
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、仏壇ぶつだんまえへすわり、しずかにかねをたたき、お念仏ねんぶつとなえたのです。そこには、軍服姿ぐんぷくすがたをした若者わかもの写真しゃしんかざられ、おそなものがっていました。
子供は悲しみを知らず (新字新仮名) / 小川未明(著)
難儀なんぎさも、へびも、毛虫けむしも、とりたまごも、くさいきれも、しるしてあるはずはないのぢやから、薩張さツぱりたゝんでふところれて、うむとちゝした念仏ねんぶつとなんで立直たちなほつたはいが
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
村の衛生係が草鞋ばきの巡査さんとどぶ掃溜はきだめを見てあるく。其巡査さんの細君が赤痢になったと云う評判が立つ。かねや太鼓で念仏ねんぶつとなえてねりあるき、厄病禳やくびょうばらいする村もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
平日しめしていはれしは、我雪頽なだれうたれしとき筆をりてたりしは、たふと仏経ぶつきやうなりしゆゑたゞにやはとて一ごと念仏ねんぶつ申て書居かきをれり
彦兵衛にたった一つの道楽どうらくはこれだった。自分の心にとがめるような事をした後では、きっとそこへ入って念仏ねんぶつを云う。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
署長は、谷博士、山形警部それから勇敢な五少年の死をいたんで、思わずお念仏ねんぶつをとなえたのだった。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
イワナがけて坊主ばうずになつて、殺生禁断せつしやうきんだん説教せつけう念仏ねんぶつとなへて辿たどりさうな。……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
今夜こよひは満願とてかの橋にもいたり殊更ことさらにつとめて回向ゑかうをなし鉦うちならして念仏ねんぶつしけるに、皎々けう/\たる月遽然にはかくもりて朦朧まうろうたり。
警官は、おそろしさに、たまらなくなって、合掌がっしょうしてお念仏ねんぶつをとなえ、目をとじた。
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御坊様ごばうさま歩行あるきながらお念仏ねんぶつでもとなへてつてくれさつしやい
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
めん楚歌そか弥次やじごえも馬の耳に念仏ねんぶつ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それではくちでいふ念仏ねんぶつにもまぬとおもふてさ。」
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)