こころざし)” の例文
もちろん、老人ろうじんこころざしとならなかったばかりか、B医師ビーいしは、老人ろうじんきだったらしいすいせんを病院びょういんにわえたのでありました。
三月の空の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くだれる世に立って、わが真を貫徹し、わが善を標榜ひょうぼうし、わが美を提唱するの際、拖泥帯水たでいたいすいへいをまぬがれ、勇猛精進ゆうもうしょうじんこころざしを固くして
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
一度ありたりとて自らすでに大悟徹底したるが如く思はば、野狐禅やこぜんちて五百生ごひゃくしょうの間輪廻りんねを免れざるべし。こころざしだいにすべき事なり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
このふた品を持って、北条安房あわどのを訪れ、幕府への御推挙を仰ぐとも、また一刀流を称して他に一家を構えようともこころざしどおりにいたせ
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嫌だからとて「瓢箪ひょうたん川流かわながれ」のごとく浮世のまにまに流れて行くことはこころざしある者のこころよしとせざるところ、むしろずるところである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そしておなじこころざしのポオ助教授と帆村荘六とが、いまは博士の下で、『ガン星およびガン人の研究』という論文をつくっているという話だ。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
こころざしを立てて自分の生活を開拓せんとするものにとって、特に、学問で身を立てようとするものにとって、東京ほど魅力のある誘惑はない。
時々あわて者が現われて、一昂奮こうふんから要路の大官を狙ったりなどするのは、畢竟ひっきょう大鵬たいほうこころざしを知らざる燕雀えんじゃくの行いである。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
少小より尊攘のこころざし早く決す、蒼皇そうこうたる輿馬よば、情いずくんぞ紛せんや。温清おんせいあまし得て兄弟にとどむ、ただちに東天に向って怪雲を掃わん
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
人がひとりの力ではどうすることもできぬことでも、多数のこころざしを集めるならば何とかなるということを、千人針せんにんばりというものはよくみとめている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
谷川から上って来さしった時、手足も顔も人じゃから、おらあ魂消たまげたくらい、お前様それでも感心にこころざし堅固けんごじゃから助かったようなものよ。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは一旦取りましたが必要のない物ですから折角下すったこころざしは確かに受けたがこれは入用がないからお還し申すと言って還して遣りました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
立派に熨斗のしをつけて進上するから、ねえ、宗さん、後になっていざこざのないように一筆書いておくんなさいよ。その代りこれはわたしのこころざしさ。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
秀吉ひでよしこころざしおほいなるも、一四七はじめより天地あめつちに満つるにもあらず。一四八柴田と丹羽にはが富貴をうらやみて、羽柴と云ふうぢを設けしにてしるべし。
「ねえ、ゴルドン君、おたがいにゆずりあってもはてしがない、連盟の第一義は協力一致きょうりょくいっちだ、平和だ、親愛だ、そのこころざしについて考えてくれたまえ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
中川さんにも今そう申して来ました。お受け下さらんと僕のこころざしが無になります。これはわざわざ貴嬢あなたに差上げるつもりで近頃新製の珍らしい半襟を
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
お前は、わしの子として、父のこころざしを継ぐことを、名誉だとは思わないのか、俺の志を継いで、俺が年来の望みを、果させて呉れようとは思わないのか。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かくこころざしつらぬあたわずして、再び帰郷するのむなきに至れるは、おんみに対しまた朋友ほうゆうに対して面目なき次第なるも、如何いかんせん両親の慈愛その度に過ぎ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
どうしても建築学を研究するこころざしでお店を手伝ひながらも独学で一生懸命店裏で本を読んだり暇を見ては方々の街の有名な建築を見て歩いたりしていらしつた。
秋の夜がたり (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「ここに井戸いどってたびひとにのんでもらおうとおもいます。こころざしのあるかたは一せんでも五りんでも喜捨きしゃしてください。」
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
氏は新政府に出身してただに口をのりするのみならず、累遷るいせん立身りっしんして特派公使に任ぜられ、またついに大臣にまで昇進し、青雲せいうんこころざしたっし得て目出度めでたしといえども
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こころざしの末通りけるか、万里の外なる蘇武が旅寝に故郷の砧きこえしとなり。わらはも思ひ慰むと、とてもさみしきくれはとり、綾の衣を砧にうちて心慰まばやと思ひ候
謡曲と画題 (新字新仮名) / 上村松園(著)
見物はのこらず見て聞いてかっさいをしたあとで、いくらでもおこころざししだいにはらえばいいというのである。
殿におかれて、おこころざしがあれば、まだしものことですが、日々の登営すらものうく思われ、内書にあずかることさえうとんじらるるようでは、この先のことが案じられます。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
楽堂の片隅に身をせばめながら自分相応の小さな楽器を執って有名無名の多数の楽手が人生をかなでる大管絃楽の複音律シンフォニイかすかな一音を添えようとするのが私のこころざしである。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
今に至り初めて大に悟る所あり。自らかえりみるときは不徳※才ひさいことこころざしたがうこと多しと雖、しかも寸善を積みて止まざるときは、いずれの日必成ひっせいの期あるべきを信ずる事深し。
関牧塲創業記事 (新字新仮名) / 関寛(著)
成程小さい——が、折角のこころざしを無にするも何だから、借りて置く事にして、礼をいって窓下まどしたに据えると、雪江さんが、それよか入口の方が明るくッて好かろうという。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ひとしく時の政府に反抗はんこうしたるものにして、しも西郷がこころざしを得て実際じっさいに新政府を組織そしきしたらんには、これを認むることなお維新政府いしんせいふを認めたると同様なりしならんのみ。
一に、そのこころざしを罰し、わざわいを事前にふせぎ、世の禍根を除くため、であろうと、まず推測いたすな。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
故人の弟達や縁者のこころざしだと云って、代々木の酒屋の屋号やごうのついた一升徳利が四本持ち出された。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「芳江殿のおこころざしは、有難くお受けは致しますものの、私はあなたのお父上より、職を解かれた者でござれば、もはや一刻もこの国には、止どまり兼ねるのでござりまする」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「酒までたくさんそろええてくれたこころざしめんじて、今晩はお前の家で酒盛さかもりをするとしよう」
天狗の鼻 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
其傍に光輝こうき燦爛さんらんたるものあるをしものありと、此等の迷霧めいむはらさしめんとのこころざしは一行の胸中に勃然ぼつぜんたり、此挙このきよや数年前より県庁内けんちやうないに於ておこなはんとのありしもつね其機そのきを得ず
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
すみやかにれ、われけがすことかれ。われむし(三七)汙涜をとくうち遊戲いうぎしてみづかこころようせん。くにたももの(三八)せらるることからん。終身しうしんつかへず、もつこころざしこころようせんかな
真にしかり、真に然り、君の苦衷くちゅう察するにあまりあり。君のごときこころざしを抱いて、世に出でし最初の秋をかくさびしく暮らすを思へば、われらは不平など言ひてはをられぬはずに候。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
哲人はいった、「三軍もその帥をうばうべし、匹夫ひっぷもそのこころざしをうばうべからず。」
珠運しゅうん梅干渋茶に夢をぬぐい、朝はん平常ふだんよりうまく食いてどろを踏まぬ雪沓ゆきぐつかろく、飄々ひょうひょう立出たちいでしが、折角わがこころざしを彫りしくし与えざるも残念、家は宿のおやじききて街道のかたえわずか折り曲りたる所と知れば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
これは少しだけれど、ほんの、わたしたちのこころざし、どうぞ納めておいて下さい。
抽斎の家には食客しょっかくが絶えなかった。少いときは二、三人、多いときは十余人だったそうである。大抵諸生の中で、こころざしがあり才があって自ら給せざるものを選んで、寄食を許していたのだろう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そして、一遍うちのなかを外国人に見せるたびに、シュミット爺さんは、案内して来たものからいくらかのこころざしをもらうのだろうと思った。ウィーンは心づけのこまごまといるところだったから。
道標 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
こころざしはあったが、結婚後は手が廻り兼ねた。両親も察して、それには及ばないと言ってくれたのを幸い、その中俸給が上ってからと心掛けていたら、長男が生れた。以来一年置きに人口が繁殖はんしょくした。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
尊王攘夷そんのうじょういという言葉は御隠居自身の筆に成る水戸弘道館の碑文から来ているくらいで、最初のうちこそ御隠居も外国に対しては、なんでも一つこらせという方にばかりこころざしを向けていたらしいが
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こころざしは有難いが、ろくな御馳走はないぜ」
奇特のこころざし天晴れである。
相馬の仇討 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「おまえのこころざしは、よくおとっさんにとどいたとおもいます。もうろうそくがなくなったから、さあやすみましょう。」と、母親ははおやはいいました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
おのれをつるには、そのうたがいを処するなかれ。その疑いを処すればすなわちしゃもちうるのこころざし多くず。人にほどこすにはそのほうむるなかれ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
折から山県蔦之助やまがたつたのすけもかけつけた。あらためて伊那丸いなまるこころざしをのべ、一同にも引きあわされて、一とうのうちへ加わることになった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おい、あんちゃん。わしが王先生と醤買石の寝室をのぞきにいったことは、内緒にしておいてくれ。これはわしのこころざしぢゃ」
そうすると通行人のなかから、荷物はなくて信心のこころざしのある者が、二里でも三里でもお社の方角へ送って行くのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
燕雀えんじゃくいずくんぞ大鵬たいほうこころざしを知らんやですね」と寒月君が恐れ入ると、独仙君はそうさと云わぬばかりの顔付で話を進める。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)