かならず)” の例文
なにをとこころすなぞは、あなたがたおもつてゐるやうに、たいしたことではありません。どうせをんなうばふとなれば、かならずをとこころされるのです。
藪の中 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
古語にいわく、遠不とおくおもんぱからざればすなわちかならず近憂ちかきうれいありと、故に間に遠近の差別なく其間をまもらず
巌流島 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
われ茉莉まつり素馨そけいの花と而してこの来青花に対すればかならず先考日夜愛読せし所の中華の詩歌楽府がくふ艶史のたぐひを想起せずんばあらざるなり。
来青花 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
亦、天皇、其后へ、命詔ミコトモタしめして言はく、「およそ、子の名はかならず、母名づけぬ。此子の御名をば、何とか称へむ。」かれ、答へもうさく、……。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
かならずしも自己のためにのみ来世を望むにあらず、神の義の完全なる顕照けんしょうを熱望する時、自己を離れて人に深刻痛切なる来世希求が起るのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
屋號やがう樓稱ろうしようかは。)と、(まつ。)とあゐに、紺染こんぞめ暖簾のれんしづかに(かならず。)とかたちのやうに、むすんでだらりとげたかげにも、のぞ島田髷しまだえなんだ。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
此まゝにして置けば、隣家はゆるしてくれもしようが、かならず何処どこかで殺さるゝに違いない。折も好し、甲州こうしゅうの赤沢君が来たので、甲州に連れて往ってもらうことにした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それは又どうして? とお嬢様はかならずお尋ねでございましょう。簡単に申し上げることに致します。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
作者の心に映る幻影を幻影として写す秋成の態度と、心理批判を棄て得ない谷崎君の態度に、私などは時代の相違を見るので、かならずしも一をとし一をとするのではない。
武州公秘話:02 跋 (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
作者の心に映る幻影を幻影として写す秋成の態度と、心理批判を棄て得ない谷崎君の態度に、私などは時代の相違を見るので、かならずしも一をとし一をとするのではない。
 御せついはくおよそもの方体はうたいは(四角なるをいふ)かならず八を以て一をかこ円体ゑんたいは(丸をいふ)六を以て一をかこ定理ぢやうり中の定数ぢやうすうしふべからず」云々。雪をむつはなといふ事 御せつを以しるべし。
第四 冬寒支体僵瘃きょうちょくノ病 雪塊ヲ取テ患部ニ擦搽さったスレバ即チユ 又臘雪水甘クシテ大寒 天行えきヲ解シ一切ノ瘡毒そうどくヲ療ス ソノ他諸病ニ於テかならずツ所ニシテ医家欠クベカラズ
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
余幼童時春色清和の日にはかならず友どちとこの堤上にのぼりて遊び候、水には上下の船あり、つつみには往来の客あり、その中には田舎娘の浪花に奉公してかしこく浪花の時勢粧はやりすがたなら
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
かならずしもつとむるとにはあらねど、夫の前にはおのづから気の張ありて、とにかくにさるべくは振舞へどほしいままなる身一箇みひとつとなれば、にはかものう打労うちつかれて、心は整へんすべも知らずみだれに乱るるが常なり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しも、建築けんちく根本義こんぽんぎ解決かいけつされなければ、眞正しんせい建築けんちく出來できないならば、世間せけんほとんどすべての建築けんちくこと/″\眞正しんせい建築けんちくでないことになるが、實際じつさいおいてはかならずしもしか苛酷かこくなるものではない。
建築の本義 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
すでくの如しとせば、予等独自の眼光を以て万象を観んとする芸術の士の、梅花に好意を感ぜざるはかならずしも怪しむを要せざるべし。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我が国人に取って海外の新説はいつの時代にあってもかならず歓迎せられ、またいつの時代にあっても必相応の効果を成すものである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ヨブの如き人を今日わが国において見ざる事はかならずしもヨブが架空の人たる証左とはならない。しかしながらヨブの完全は神より見ての完全ではない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
かならず形は一人称で、而も内容は三人称風のものである。其が、明らかに地の文の意義を展いて来るのは、下地に劇的発表の要求があるのである。此事は様式論として、詳しく書く機会があらう。
国文学の発生(第二稿) (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
だから粗密の好みを云へば、一致しない点が多いかも知れぬ。が、純雑を論ずれば、かならずしも我等は他人ではない。(十一月十二日)
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
およそ江戸時代の詩文集にはかならず数人の序跋題辞等が掲げてあるのに、独り枕山の集のみこれを見ないのはすこぶる異例とすべきである。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかしこれ感情激発の語であれば、普通の批判の標準を以てこれに対すべきではない。しかしながらヨブの言かならずしも全然誤謬ということは出来ない。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「その罪を憎んでその人を憎まず」とはかならずしも行うに難いことではない。大抵の子は大抵の親にちゃんとこの格言を実行している。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今日きょうて過ぎた寺の門、昨日きのう休んだ路傍ろぼうの大樹もこの次再び来る時にはかならず貸家か製造場せいぞうばになっているに違いないと思えば
それでは清閑の無いやうな現代の生活からは、芸術を望むことは出来ないかと云ふと、わたしかならずしもさうではないと思ふのである。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
然りといへども小人しょうじんにしてたまを抱けばかならずあやまちあり。鏡につらをうつして分を守るは身を全うするの道たるを思はば襤褸買必しも百損といふを得んや。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
嘲笑つてゐるかも知れないのだぞ。生きろ! 立派に生きて見せろ! 侍従のまりを見さへすれば、かならずお前は勝ち誇れるのだ。……
好色 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
私はこれ等の光景に接すると、かならず北斎或はミレヱを連想して深刻なる絵画的写実の感興をいざなひ出され、みづか絵事くわいじの心得なき事を悲しむのである。
水 附渡船 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
可笑をかしい話でございますが、わたしはいまだに薬種の匂、陳皮ちんぴ大黄だいわうの匂がすると、かならずこの無尽燈を思ひ出さずには居られません。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
北寿の板物を見るものはまた彼が好んで雲を描くがためにかならずその画面には空と水とのだいなる空間を設けたる事を知るべし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、同感であると云ふ意味はかならずしも各時代の芸術を、いづれもその時代の芸術であるから、平等に認めると云ふ意味ではない。
解嘲 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
勿論もちろんその時はひどく怒るだろうが、怒るほど内心未練が強くなるのにきまっているから、翌日かならず恨みをいいにやって来る。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「お前はよくそんな事まで覚えてゐるね。」——夫にかう調戯からかはれると、信子はかならず無言の儘、眼にだけこびのある返事を見せた。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
帽子は広きつばありて鉢巻のリボンを後に垂らしたり。ズボンは中学校に入り十五、六歳にいたるまでかならず半ズボンなりき。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
(後者は永井荷風ながゐかふう氏の比喩ひゆなり。かならずしも前者と矛盾むじゆんするものにあらず)予の文に至らずとせば、かかる美人に対する感慨をおもへ。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
いづれも三日打捨てて置けば必ず向より詫を入れて還ること、あたかももう来ねへぞといふお客かならずその晩に来るが如し。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「侏儒の言葉」はかならずしもわたしの思想を伝えるものではない。唯わたしの思想の変化を時々うかがわせるのに過ぎぬものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はこれらの光景に接すると、かならず北斎あるいはミレエを連想して深刻なる絵画的写実の感興をいざない出され、みずか絵事かいじの心得なき事を悲しむのである。
まして「えけれしや」への出入りには、かならず髪かたちを美しうして、「ろおれんぞ」のゐる方へ眼づかひをするがぢやうであつた。
奉教人の死 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
靴は穿かず、古下駄もかかとの方が台まで摺りへっているのを捜して穿く事、煙草はかならずバットに限る事、エトセトラエトセトラである。だから訳はない。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
僕の「大溝」を思ひ出したり、その又「大溝」に釣をしてゐた叔父を思ひ出したりすることもかならずしも偶然ではないのである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
物極まればかならず変転するのは自然の法則である。われわれの子孫が再び古き日本を追想すべき時も来ずには居まい。回顧の資料は書籍に優るものはない。
冬日の窓 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
すましてゐるだけなら、まだいいが、外の連中が、せつせと虱狩をしてゐるのを見ると、かならずわきからこんな事を云ふ。——
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
都人の来って酒宴を張り或は遊冶郎のひそかに芸妓矢場女の如き者を拉して来る処で、市中繁華の街を離れてやや幽静なる地区にはかならず温泉場なるものがあった。
上野 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、指の満足だつた彼も、——同時に又相手を翻弄ほんろうする「あそび」の精神に富んでゐた彼もかならずしも偉大でないことはない。
澄江堂雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
世人は元禄の軟文学を論ずる時かならず西鶴と近松とを並び称しているようであるが、わたくしの見る処では、近松は西鶴に比すれば遥に偉大なる作家である。
正宗谷崎両氏の批評に答う (新字新仮名) / 永井荷風(著)
こは芸術を使命とするものには白日はくじつよりも明らかなる事実なり。然れども独自の眼を以てするはかならずしも容易のわざにあらず。
続野人生計事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
人その身の強弱を顧ずして食うべきもの悉く取って以って食うべしとなさばかならず身をそこなうべし。読書見聞もその修むる道によりて慎むべく避くべきもの多し。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
又産児をまぬかるべき科学的方法並びに道徳的論もほぼ完全にそなはりたれば当代の女人のかならずしも交合かうがふを恐れざるは事実なるべし。
娼婦美と冒険 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
市中の道を行くにはかならずしも市設の電車に乗らねばならぬときまったものではない。いささかの遅延を忍べばまだまだ悠々として濶歩かっぽすべき道はいくらもある。