多勢たぜい)” の例文
しかしチユウヤは、勇敢に戦つて、捕手を二人ふたりり殺した。けれども、とうとう多勢たぜい無勢ぶぜいで、捕手のために逮捕されてしまつた。
日本の女 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
かかる始末となって多勢たぜい取巻とりまかれては、到底とても本意ほんいを遂げることは覚束おぼつかない。一旦はここを逃げ去って、二度の復讐を計る方が無事である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
然るに今、多勢たぜいの妾を養い、本妻にも子あり、妾にも子あるときは、兄弟同士、父は一人にて母はことなり。夫婦に区別ありとはいわれまじ。
中津留別の書 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
われにぎつて、さうまなこあきらかにさいを、多勢たぜい暗中あんちゆう摸索もさくして、ちやうか、はんか、せいか、か、と喧々がや/\さわてるほど可笑をかしことい。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ちり積って山をなすと云うから、微々たる一生徒も多勢たぜい聚合しゅうごうするとあなどるべからざる団体となって、排斥はいせき運動やストライキをしでかすかも知れない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は連を捜しに出掛けようとしたが、その時ふと気が附いて見れば、一人の男が自分の売場に立つて、多勢たぜいの人の頭を見越して、僕に手招てまねきをしてゐた。
不可説 (新字旧仮名) / アンリ・ド・レニエ(著)
「まあまあ、そこのところをひとつ——どうかそういうわけでございますから旦那様、多勢たぜい無勢ぶぜいでどうもはや、どうかお引移りを願いたいもので……」
學び得て覺えある惡漢しれものなれ共不意ふいと云多勢たぜいにて押伏おしふせられし事故汚面々々をめ/\召捕めしとられけり斯て又友次郎は其朝馬喰町の旅宿をあけ寅刻なゝつに立出て板橋の方へいたり吾助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
多勢たぜい無勢ぶぜいである。ときには、ひょっとしたら自分たちはそういう異類のものゝ血筋なのではないか。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
何よりも多勢たぜいの側にとって不利なので、存分に動きのとれる峠下の広野へ泰軒をひきだし、また自分たちも一歩でも江戸に近よろうと、軍之助の指揮のもとに、一同
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
僕は一生懸命にそうはさせまいとしましたけれども、多勢たぜい無勢ぶぜいとてかないません。
一房の葡萄 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
と、クーパーはふんがいしてみたが、なにしろ多勢たぜい無勢ぶぜいでどうにもならない。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
何故なぜ早く云わん、それじゃア狼藉者ろうぜきものが忍び込み、飯島が流石さすが手者てしゃでも多勢たぜい無勢ぶぜい切立きりたてられているのを、お前が一方を切抜けて知らせに来たのだろう、宜しい、手前は剣術は知らないが
あの名だたる名家の劍と一門の多勢たぜいに對して、一個の武藏が、ただよくそれを克服したとか、強かつたとかいふのみでなく、精神的に觀ても、すでに或る高い境地にまで到達してゐた跡が見える。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
「この化け物め。なんで人間にむかって無礼を働くのだ」と、士は勇気を回復して叫んだが、やはり多勢たぜいにはかなわない。
下士はよき役をつとめかねて家族の多勢たぜいなる家に非ざれば、婢僕ひぼくを使わず。昼間ひるまは町にでて物を買う者少なけれども、夜は男女のべつなく町にいずるを常とす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何しろ多勢たぜい無勢ぶぜいと云い、こちらは年よりの事でございますから、こうなっては勝負を争うまでもございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また早い話が、この峠を越さねばと申して、多勢たぜいのものが難渋をするでもなし、で、聞いたままのお茶話。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多勢たぜいの間に立って、多数よりすぐれたりとの自覚あるものは、身動きが出来ぬ時ですら得意である。博覧会は当世である。イルミネーションはもっとも当世である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お角は血にみた剃刀を打振って、群がり来る折助の面を望んでは縦一文字、横一文字に斬って廻る。けれども、多勢たぜいを恃む折助、賭博打ばくちうち、後から後からと押して来る。
と、どなったが、もちろん多勢たぜい無勢ぶぜいで、とてもかなわないと見えたし、そのうえ、じつはこのとき竹見にもいささか考えがあって、わざと相手のやりほうだいにまかせておいたのだった。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
し向うが多勢たぜいで乱暴を仕掛けられた時は、むを得ず腰の物を取らんければならぬ、其の時離れていては都合が悪い、それゆえ襖の蔭へ置きまして、余程柄前つかまえ此方こっちへ見えるようにして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
多勢たぜい無勢ぶぜい、あたいはスタコラ逃げ出して、駕籠でここへとんできたわけだが、もう穴は埋まったに相違ねえ。ねえ小父ちゃん。お前はとっても強い人だって、丹下の父上が始終しじゅう言っていたよ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
あの名だたる名家の剣と一門の多勢たぜいに対して、一箇の武蔵が、ただよくそれを克服したとか、強かったとかいうのみでなく、精神的に観ても、すでに或る高い境地に近づきかけていた跡が見える。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜なかに多勢たぜいが押し寄せて来たのを見て、賊徒の夜襲と早合点して、太鼓を鳴らして村内の者どもを呼びあつめた。
れからいよ/\巴里に着して、先方から接待員が迎いに出て来ると、一応の挨拶終りて此方こっちよりの所望しょもうは、随行員も多勢たぜいなり荷物も多いことゆえ
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
多勢たぜいが朝に晩に、この一人を突つき廻わして、幾年ののちこの一人の人格を堕落せしめて、下劣なる趣味に誘い去りたる時、彼らは殺人より重い罪を犯したのである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
東山少尉は、振笛しんてきを吹いて、残りすくない部下を、非常召集した。だが、敵は多勢たぜいで、服装に似ず、戦闘力は強かった。局舎守備隊も苦戦と見えて、連絡は、どう頑張っても、とれなかった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
愚と言われ、嫉妬しっとと言われ、じんすけとあざけられつつも、多勢たぜいの人数を狩集かりあつめて、あの辺の汽車の沿道一帯を、あわ蕎麦そば、稲を買求めて、草に刈り、あくたにむしり、甚しきは古塚の横穴をあばいてまで
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いきはきれる。——それに、多勢たぜい無勢ぶぜいだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なにを申すも多勢たぜい無勢ぶせい……。(嘆息する。)わずか一日のいくさで……。思えば果敢はかないことでござりました。
平家蟹 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
中津人は俗物であるとおもって、骨肉こつにく従兄弟いとこに対してさえ、心の中には何となくこれ目下めした見下みくだして居て、夫等それらの者のすることは一切とがめもせぬ、多勢たぜい無勢ぶぜい
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
ただ神経ばかり痛めて、からだは悪くなる、人はめてくれず。向うは平気なものさ。坐って人を使いさえすればすむんだから。多勢たぜい無勢ぶぜいどうせ、かなわないのは知れているさ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「どうもソノ、あの場合ぐずぐずしていると、こっちの部下たちが、みんな海の中に、なげこまれそうになったもんでしてナ。なにしろ多勢たぜい無勢ぶぜいというやつです。そのうえ、向こうは、なかなか手剛てごわいごろつきぞろいなんです」
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そうして幽霊の小屋へ行って、何かごた付いたろう。はは、相手が悪い。おまけに多勢たぜい無勢ぶぜいだ。なぐられて突き出されて、ちっと器量が悪かったな」
ほとんど最下等の労働者にさえよわいされない人非人にんぴにんとして、多勢たぜいの侮辱を受けている。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
船のわりにしては多勢たぜい乗組人のりくみにんでありしが、この航海の事については色々お話がある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
もがいても狂っても、多勢たぜい無勢ぶぜいである。采女は大地に捻じつけられて、両腕をひしひしとくくられてしまった。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
もし積極的に出るとすれば金の問題になる。多勢たぜい無勢ぶぜいの問題になる。換言すると君が金持に頭を下げなければならんと云う事になる。衆をたのむ小供に恐れ入らなければならんと云う事になる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まして多勢たぜい無勢ぶぜいであるから、中間はとても反抗する力はなかった。かれは彼等のなすままにおめおめ服従して、白昼諸人のまえに生き恥をさらすほかはなかった。
半七捕物帳:23 鬼娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なにをいうにも多勢たぜい無勢ぶぜいですから、こうなったら逃げるよりほかはない。異人たちは真っ蒼になって坂下の方へ逃げました。別手組も一緒に逃げました。弥次馬はときの声をあげて追って来る。
半七捕物帳:58 菊人形の昔 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しかも本寺から多勢たぜいの僧侶を送って来ることは、道中の経費その他に多額の物入りを要するので、本寺の僧はその一部に過ぎず、他は近所の同派の寺々から臨時に雇い入れることになっている。
半七捕物帳:65 夜叉神堂 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)