外濠そとぼり)” の例文
その相迫りて危く両岸りょうがんの一点に相触れんとするあたり八見橋やつみばし外濠そとぼりの石垣を見せ、茂りし樹木のあいだより江戸城の天主台を望ませたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今日こんにち入船にゅうせんは大和の筒井順慶つついじゅんけい和泉いずみ中村孫兵次なかむらまごへいじ茨木いばらき中川藤兵衛なかがわとうべえ、そのほか姫路ひめじからも外濠そとぼりの大石が入港はいってまいりますはずで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
現に外濠そとぼりから窖道こうどうへ通ずる路をつけるときなどは、朝から晩まで一日働いて四十五サンチ掘ったのが一番の手柄であったそうだ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いや以てのほかの騒動だ。外濠そとぼりからりょういても、天守へらいが転がつても、太鼓櫓たいこやぐらの下へ屑屋がこぼれたほどではあるまいと思ふ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
外濠そとぼりの堤の松の下の暗闇くらやみを連れだって行く若い女と男とがあった。女は男に対して強硬な態度をとって、男を引放してずんずん足を早めていた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼等が悟を説くや、到底城見物の案内者が、人を導きて城の外濠そとぼり内濠をのみ果てしなくめぐり廻りて、つひに其の本丸に到らずしてめる趣きあるなり。
予が見神の実験 (新字旧仮名) / 綱島梁川(著)
外濠そとぼりを埋められてから大阪が亡びるに至るだろうことを予言した片倉小十郎と共に実に伊達家の二大人物であった。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
水は満々と外濠そとぼり内濠の兵備の深さを示して、下馬門、二の門、内の門と見付け見付けの張り番もきびしく、内外ともに水ももらさぬ厳重な警備でした。
外濠そとぼりの電車が来たのでかれは乗った。敏捷びんしょうな眼はすぐ美しい着物の色を求めたが、あいにくそれにはかれの願いを満足させるようなものは乗っておらなかった。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
須田町すだちょうに出た時、愛子の車は日本橋の通りをまっすぐに一足ひとあし先に病院に行かして、葉子は外濠そとぼりに沿うた道を日本銀行からしばらく行く釘店くぎだな横丁よこちょうに曲がらせた。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
東京の外濠そとぼりに添うた通りの見すぼらしい住宅の中で、親子三人が晩の食膳に向かって、こんな話をしていました。父親は××警察署へ勤務している巡査部長です。
少年探偵呉田博士と与一 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
弘田の屋敷は黒門外といって、城の外濠そとぼりに面していた。門の外の濠端道に立つと、左のほうに菅生曲輪くるわ、右に備前曲輪、そして菅生曲輪の向うに本丸の天守閣が眺められた。
みずぐるま (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
またかゝる要害には閾より外濠そとぼりの岸にいたるまで多くの小さき橋あるごとく 一三—一五
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
東京の日本橋から外濠そとぼりの方へ二つ目の橋で、そこはもはや日本橋川が外濠に接している三叉さんさの地点に、一石橋がある。橋の南詰の西側にび朽ちた、「迷子のしるべの石」がある。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
江戸大城の関門とも言うべき十五、六の見附みつけをめぐりにめぐる内濠うちぼりはこの都会にある橋々の下へ流れ続いて来ている。その外廓そとがわにはさらに十か所の関門を設けた外濠そとぼりがめぐらしてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
帝劇の尾上梅幸が、芝居がはねてから、夜遅く友達と一緒に外濠そとぼりを歩いてゐた。空には星が瞬きをしてゐた。梅幸は立ちどまつてじつとそれに見とれてゐたが、しみじみと思ひ込んだらしく
帰りに外濠そとぼり線の通りへ出たら、さっと風が吹いて来て持ってるつつみ吹き飛ばしてしもうて、それ追いかけて取ろうとすると、ころころと何処迄でもころこんで行くよってに、なかなか取られへんねん。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
伊那丸いなまる龍太郎りゅうたろう外濠そとぼりをわたって、脱出だっしゅつしたのを、やがて知った浜松城の武士たちは、にわかに、追手おってを組織して、入野いりぬせきへはしった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神楽坂から外濠そとぼり線へ乗って、御茶の水まで来るうちに気が変って、森川町にいる寺尾という同窓の友達を尋ねる事にした。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かくの如き眺望はあえてここのみならず、外濠そとぼり松蔭まつかげから牛込うしごめ小石川の高台を望むと同じく先ず東京ちゅうでの絶景であろう。
夜は、間遠いので評判な、外濠そとぼり電車のキリキリきしんで通るのさえ、池の水に映って消える長廊下の雪洞ぼんぼりの行方にまがう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
○今川橋下を流るゝ神田堀にして、御城おしろ外濠そとぼりより竜閑橋その他諸橋の下を経て来れるものなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
外濠そとぼりならいざ知らず、このあたりは知ってのとおり、夜中の通行はご禁制の場所、ましてや、われわれお濠方が見まわっておるのに、その目をかすめて女が水死いたしたとすれば
外濠そとぼりに沿った電車通りに、山の手アパートという三層のビルディングがある。
アパートの殺人 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
番小屋は外濠そとぼりに面した本町の角にある。三人が栄二を連れ込んだとき、目明しと子分の者がい合わせ、頭は知りあいらしく、なにか口早に事情を話して栄二を渡し、自分たちは帰っていった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
酒田であろうか、外濠そとぼりの松並木の下を歩いていた男であろうか。いやいや、そのどっちでもない。新聞広告の出たのは、彼らがお化け鞄に始めてめぐり合ったどりもずっと以前のことになる。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
外濠そとぼりから隅田川に通ずるものには、日本橋川、京橋川、汐留しおどめ川の三筋があり、日本橋川と京橋川を横につないでいるものにかえで川、亀島川、箱崎川があることから、京橋川と汐留川を繋いでいるものに
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
汗をしぼった二挺の駕は、またたく間に神田橋から外濠そとぼりに沿って、金吾と日本左衛門が引き上げられた場所まで駆けつけました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
神楽坂から外濠そとぼり線へ乗つて、御茶のみづるうちに気がかはつて、森川丁にゐる寺尾といふ同窓の友達を尋ねる事にした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
私は外濠そとぼりの土手に残った松の木をば雪のあした月のゆうべ、折々の季節につれて、現今の市中第一の風景としてよろこぶにつけて
萌黄もえぎの光が、ぱらぱらとやみに散ると、きょのごとく輝く星が、人を乗せて外濠そとぼりを流れて来た。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
飯田橋橋点で外濠そとぼりと合流して神田川となってから、なお小石川から来る千川を加え、お茶の水の切り割りを通って神田区に入り、両国橋の北詰で隅田川に注ぐまで、幾多の下町の堀川とも提携する。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この上に、あの寧子ねねが、宿やどつまとなっていたら、申し分ないが——と思ったりしながら、今朝も、清洲城きよすじょう外濠そとぼりを歩いて来た。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夕靄ゆうもやうちに暮れて行く外濠そとぼりの景色を見尽して、内幸町うちさいわいちょうから別の電車に乗換えたのちも絶えず窓の外に眼を注いでいた。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あはせ、ござ、むしろとなりして、外濠そとぼりへだてたそらすさまじいほのほかげに、およぶあたりの人々ひと/″\は、おいわかきも、さんみだして、ころ/\とつて、そしてなえたやうにみなたふれてた。
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
爆発薬の御蔭おかげ外濠そとぼりつぶしたのはこの時の事でありますと、中尉はその潰れた土山の上に立って我々を顧みた。我々も無論その上に立っている。この下を掘ればいくらでも死骸しがいが出て来るのだと云う。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
駕と武蔵が、外濠そとぼりを見て右へ曲ると、町角に現われた一団の無法者が、各〻、すそをまくり、腕をたくし上げて、その後から、いて行った。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
牛込区内では○市ヶ谷冨久町とみひさちょう饅頭谷まんじゅうだにより市ヶ谷八幡鳥居前を流れて外濠そとぼりに入る溝川○弁天町べんてんちょうの細流○早稲田鶴巻町つるまきちょう山吹町やまぶきちょう辺を流れて江戸川に入る細流。
葛飾土産 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
馬鹿にするない、見附で外濠そとぼりへ乗替えようというのを、ぐっすり寐込ねこんでいて、真直まっすぐに運ばれてよ、閻魔えんまだ、と怒鳴られて驚いて飛出したんだ。お供もないもんだ。ここをどこだと思ってる。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
武蔵は、太左衛門の脇差をかわして、太左衛門の白髪首しらがくびのどこかをつかむと、大股に十歩ほど持って来て、外濠そとぼりの中へその体をほうりこんでしまった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
数寄屋橋すきやばしから幸橋さいわいばしを経てとらもんに至る間の外濠そとぼりには、まだ昔の石垣がそのままに保存されていた時分、今日の日比谷ひびや公園は見通しきれぬほど広々した閑地で
それより少し前に、中坊陽之助を先にたてて、本丸を出たお蝶の不浄駕ふじょうかごが、平河口の犬くぐりから外濠そとぼりへ来たのは、まだ人の顔もさだかに見えない頃でした。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君江は問われてもはっきり住処は知らせなかったが、唯いちへんだと答えて、一緒に外濠そとぼり逢阪下おうさかしたあたりまで歩いて行く中、どうやら男の言うままになってもいいような素振そぶりを示した。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
さすがの龍太郎りゅうたろうも、ここまできて、はたと当惑とうわくした。もうほりまでわずかに五、六尺だが、そのさきは、満々とたたえた外濠そとぼり、橋なくして、渡ることはとてもできない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
外濠そとぼりに添い、増上寺の山内に隠れ、白金台を一気に駈けて、やがて、目黒の行人坂ぎょうにんざかの途中、紫陽花寺あじさいでらの門前で止まったと思うと、女の影は、駕を脱けて、ひらりっと
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
城下をめぐる幾筋もの川は、自然の外濠そとぼりや内濠のかたちをなし、まず平城ひらじろとしては申し分のない地相、阿波二十五万石の中府としても、決して、他国に遜色そんしょくのない城廓。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤い弁慶蟹べんけいがにが一匹、悠々、橋の上を横にあるいている。外濠そとぼりの水は、ぶつぶつ沸き立って、午過ぎから日盛りの間の一ときは、呉服橋の往来も暫く休みのようなすがたになる。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と思った直覚が、いつかしら外濠そとぼりに沿って大手の方へと、万太郎の足を向けさせている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この橋から向うは、江戸城の外濠そとぼり、大手門、桔梗門ききょうもん日暮門ひぐらしもん、それを取り巻く家屋敷というものも、およそは皆大名の邸宅で、普通の住居はない筈だが、あの侍、一体どこへ帰るのだろう。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まもなく外濠そとぼり、和田倉御門。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)