午後ひるすぎ)” の例文
こんな午後ひるすぎに折よくも、巴里パリーで懇意になつた高佐たかさ文學士が來訪された。自分よりは一箇月ばかり後れて歸朝した大學の助教授である。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
げにも浮世うきよ音曲おんぎよく師匠ししやうもとしかるべきくわいもよほことわりいはれぬすぢならねどつらきものは義理ぎりしがらみ是非ぜひたれて此日このひ午後ひるすぎより
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女史は毎週、土曜日の午後ひるすぎきまつたやうに鎌倉の別荘へ出掛けるが、そんな折にも鐚銭びたせん一つ持合さないのが何よりの自慢らしい。
理髪師とこやの源助さんが四年振で来たといふ噂が、何か重大な事件でも起つた様に、口から口に伝へられて、其午後ひるすぎのうちに村中に響き渡つた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今日けふ午後ひるすぎめえとおもふから明日あしたにすべとおもつてめたのせ、明日あしたつたら水飴みづあめでもつててやれなんておつうもふもんでがすからね
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すでに過日いつかも、現に今日の午後ひるすぎにも、礼之進が推参に及んだ、というきっさきなり、何となく、この縁、纏まりそうで、一方ならず気に懸る。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今日は午前ひるまえ花さんがお父さんとお母さんに叱られ、午後ひるすぎ乃公おれが花さんに叱られた。世の中は上から下へと順繰りに叱りこしているようなものだ。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
午後ひるすぎの天気は、そよそよと萩や、柿の葉を鳴らす風の少しあるばかりで、日本晴れのした好い日和でありました。
嵐の夜 (新字新仮名) / 小川未明(著)
歳晩にはありがちの、春のごと暖き午後ひるすぎを、はる/″\湘南の地より移り住みこゝに世を忍ぶ身とはなりぬ。
滝野川貧寒 (新字旧仮名) / 正岡容(著)
海の音遠き午後ひるすぎ、湯上がりのたいを安楽椅子いすせて、鳥の音の清きを聞きつつうっとりとしてあれば、さながらにし春のころここにありける時の心地ここちして
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
この以前いぜんぼく此處こゝときことである、或日あるひ午後ひるすぎぼく溪流たにがは下流しも香魚釣あゆつりつてたとおもたまへ。
都の友へ、B生より (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
昨日の午後ひるすぎでござりました。手前、何気なくこの先の竹林にたけのこを探しに参ったのでございます。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
午後ひるすぎまでには来ないかもしれない、もうここらで切上げようかしら、こうも思ってはみたものの、死んだお藤や、伊助の狂乱を考えると、ここまで漕ぎつけて打ち切ることは
今日も、午後ひるすぎの薄陽の射してる内から、西北の空ッ風が、砂ッ埃を捲いて来ては、人の袖口や襟首えりくびから、会釈えしゃくも無く潜り込む。夕方からは、一層冷えて来て、人通りも、恐しく少い。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
毎朝御飯前と午後ひるすぎ、学校からお帰りになるときつ練習おさらひなさるが、俺達のやうな解らないものが聞いてさへ面白いから、何時でも其時刻を計つて西洋間の窓の下に恍惚うつとりと聞惚れてゐる。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
いと暑き日の午後ひるすぎ、われは共同の廣間に出でしに、緑なる蔓草の纏ひ付きたる窓櫺さうれいの下に、姫の假寢うたゝねし給へるに會ひぬ。纖手せんしゆもてを支へて眠りたるさま、只だたはぶれに目を閉ぢたるやうに見えたり。
笹野新三郎から町奉行に申入れ、町奉行から、御腰物方に傳へて、翌る日の午後ひるすぎにはもう、『拵へ不行屆』といふ名目で彦四郎貞宗を、もう一度、根津の御用達石川良右衞門の手に戻されたのです。
『斯うしませう、明後日の午後ひるすぎといふことにしませう。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
桑の果の赤きものかげより、午後ひるすぎ水面みのもは光り
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
明日の午後ひるすぎには此疑団如何に氷解するや
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
涼しい風に搖られる午後ひるすぎ
展望 (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
残暑の日盛り蔵書を曝すのと、風のない初冬はつふゆ午後ひるすぎ庭の落葉をく事とは、わたくしが独居の生涯の最もたのしみとしている処である。
濹東綺譚 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
赤坂氷川町ひかわまちなる片岡中将の邸内にくりの花咲く六月半ばのある土曜の午後ひるすぎ、主人子爵片岡中将はネルの単衣ひとえ鼠縮緬ねずみちりめん兵児帯へこおびして、どっかりと書斎の椅子いすりぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
これよとおほせらる、一しきりおはりての午後ひるすぎ、おちやぐわしやまかつめば大皿おほさら鐵砲てつぽうまき分捕次第ぶんどりしだい沙汰さたありて、奧樣おくさま暫時しばしのほど二かい小間こまづかれをやすたま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
午後ひるすぎは大概不在だろうと思って行ったら、果して留守だった。どうせ書生はいるだろうと思っていたが、此奴もいない。下女げじょは頻りと洗濯をしていた。乃公は早速薬室へ通った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
衆議院が解散された二十五日の午後ひるすぎ、茶話記者は北浜のある理髪床かみゆひどこで髪を刈つてゐた。
午後ひるすぎ、宮ヶ崎町の方から、ツンツンとあちこちの二階で綿を打つ音を、時ならぬきぬたの合方にして、浅間の社の南口、裏門にかかった、島山夫人、早瀬の二人は、花道へ出たようである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
笹野新三郎から町奉行に申入れ、町奉行から、御腰物方に伝えて、あくる日の午後ひるすぎにはもう、『拵え不行届』という名目で彦四郎貞宗を、もう一度、根津の御用達石川良右衛門の手に戻されたのです。
『ホホヽヽ、今午後ひるすぎの三時頃ですよ祖母おばあさん。御気分は?』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
午後ひるすぎのおぼつかない觸覺てざはりのやうに
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
桜のさく或日の午後ひるすぎ小石川こいしかわいえから父と母とに連れられてここまで来るには車の上ながらも非常に遠かった。東京のうちではないような気がした。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今日ぞ一週といふ其午後ひるすぎより我れとおぼえて粥の湯のゆくやうに成りぬ、やかましけれども心切あふるゝ佐助翁が介抱、おそよが待遇、いづれもいづれも心付きては涙こぼるゝ嬉しの人々に
暗夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
(アバ大人ですか、ハハハ今日の午後ひるすぎ。)
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九月、午後ひるすぎ、日の光——
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
へやの障子に冬の日が差込んで來た。置時計が優しい小さな音でもう三時を打つた。午後ひるすぎの冬の日はきいろい色をしていかにも軟く穩かに輝いてゐる。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
「昨日の午後ひるすぎでした。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
九月午後ひるすぎ、忍びあし。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
朝のうち長崎についた船はその日の夕方近くにともづなを解き、次の日の午後ひるすぎには呉淞ウースンの河口に入り、暫く蘆荻ろてきの間に潮待ちをした後、おもむろに上海の埠頭はとばに着いた。
十九の秋 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
九月午後ひるすぎ、日の光——
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
すると思ふともなく比較するのは、今日の午後ひるすぎ、箱根から歸り道に見た相模灘、酒匂川さかはがは馬入川ばにふがは、箱根の連山、其の上に聳えた富士の山の景色であつた。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
干しにゆく日の午後ひるすぎ
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして或日曜日の午後ひるすぎ紐育ニューヨーク中央公園のベンチで新聞を読んでいた時、わたくしの顔を見て、立止ると共にわたくしの名を呼んだ紳士があった。誰あろう。
向島 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
今から丁度十年ほど前、自分は木曜会の葵山きざん渚山しょざん湖山こざんなぞいう文学者と共に、やはり桜の花のさく或日の午後ひるすぎ、あの五重の塔の下あたりの掛茶屋かけぢゃやに休んだ。
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
丁度梅雨ばいうの時節、幾日となく降りつゞいた雨がふと其日の午後ひるすぎ小止をやみした。の明けたやうに、パツと流れて來る日の光の強さは、もうすつかり夏である。
歓楽 (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
此の寺の鐘は冬の午後ひるすぎに能く聞馴れた響なので、自分の胸には冬に感ずる冬の悲しみが時ならず呼起され、世の中には歓楽も色彩もなんにもないやうな気がして
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此の寺の鐘は冬の午後ひるすぎに能く聞馴れた響なので、自分の胸には冬に感ずる冬の悲しみが時ならず呼起され、世の中には歡樂も色彩もなんにもないやうな氣がして
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
空は日毎に青く澄んで、よく花見帰りの午後ひるすぎから突然暴風になるやうな気候の激変は全くなくなつた。
花より雨に (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
空は日毎に青く澄んで、よく花見歸りの午後ひるすぎから突然暴風になるやうな氣候の激變は全くなくなつた。
花より雨に (旧字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
午後ひるすぎも三時過ぎてから、ふらりと郊外へ散歩に出る。行先さだめず歩みつづけて、いつか名も知らず方角もわからぬ町のはずれや、寂しい川のほとりで日が暮れる。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ふと小石川の事を思出して、午後ひるすぎに一人幾年間見なかった伝通院をたずねた事があった。近所の町は見違えるほど変っていたが古寺ふるでら境内けいだいばかりは昔のままに残されていた。
伝通院 (新字新仮名) / 永井荷風(著)