もの)” の例文
ふところの金よりはその腰のものを奪うのが目的である。当時、日本刀は荷抜屋ぬきやの一番もうかる品で、また一番買い占めにくい品でもあった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
他の一人 いや、手前こそ、お邪魔になるところへ小長いものを突き出しておって、不調法をつかまつりました。平に御勘弁を。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
喜「いや嗜きじゃア堪らねえ、ねエ殿様、此方こちらへおあがんなさい、長いものを一本半分差してういううちに上ると身体を横にしなければ這入れませんよ」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「万が一にも、大丈夫とは思うが、万一、こしものでも引き抜くと、この混雑の中で多数あまたな怪我人を出すから、充分に、気をつけい」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刀をぶつけた侍 かようなやくざなものがお眼に留まるとは、恐縮です。とてもお歴々の見参にそなえるようなものではござりませぬが、お望みとあらば、お安い御用。どうぞ御覧を。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と云ったがうっかり倉の方へ這入り、盗賊どろぼうに長いものひっさげて出られちゃア堪りませんし、由兵衞はぶる/\して役に立ちませんから、幸三郎が自身に駈出して参ると、丁度巡行の査公さこうに出会いました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
さすがに、刀にむかうと、痩せた肩を、突兀とっこつそびえ立て、片手を膝に、片手を伸ばして、武蔵の腰のものを取って、慇懃いんぎんに頭を下げた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかとお手前のものに相違ありませぬな。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だが耕介は、元よりそんな縁故を知ろうはずもないので、並扱いにしているにちがいないが、武蔵の腰のものを見てから、どこか改まって
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「聞えたって、なあに、かまうもんか。なにかいったらしずたけで、すこしらなかったこしものに、生血いきち馳走ちそうさせてやるさ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
耳や、片腕を、斬り落して、生かしておくのも勝手だし、なぶり殺し、胴試しに、職業のものでためされても、文句はいえない。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
みなぎりだした殺念はがんにあらわれてものすごい。月光を吸いきった三尺たらず無銘のわざもの、かつ然と鍔鳴つばなりさせて天蓋の影へ斬りかかった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じゃ教えてやるが、実は、あれや御城下の刀ぎ、大黒宗理おおぐろそうりの店先で、おめえが頼みものをうけ取っている間に、道具箱からぬけだしていたんだ。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
脅しでない。腰のものにかけて申す。老体は隠者めかしてとぼけているが、じつは諜者ちょうじゃをつかって、寄手のうごきをさぐり、ひそかに千早の正成を
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
市十郎の手は、無意識に、またも自分の腰のものをさぐりかけていた。雨は、彼ひとりを、無残に打ちたたくように降った。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今、早速に、其方が鍛ちにかかっている山寺源太夫様の御下命の品にせよ、ここで一際ひときわすぐれたものち上げねば、名折れの上の名折れになろうと
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『偽りを申すな。今のそちの精神として、幕府方の侍共の腰のものが鍛てるはずはない。江戸に居たとて、出来るものか』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「さぞ、そちの腰のものはよう斬れような。しかし何を斬れても、世には斬れぬものがあることも、わきまえておけよ」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曲尺まがりがねを踏みつけやがったんです。曲尺はわっしどものたましいだ。お侍のこしものと同じでさ。そいつをこの野郎が」
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「フーム、するとそりゃなんだろう、おめえが小さい時に死んだという、お袋さんに由緒のあるものじゃねえかな」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し、打ち見た所、平常の腰のものとは、確かに違って、寸長な見るからに反打そりうちの烈しい刀を横たえては居た。
夏虫行燈 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それはまだ大黒宗理の手でがれてきたばかりのもの、斬ってもその切ッさきに、口紅ほどの血もめていない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
妄動もうどうするな、うかつに動くと危ないぞ、動かぬ切れものへさわってきて、われから命を落すまい。無益な殺傷沙汰はしたくないと思う、で、話がある! 静かにせい」
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その顔つき通り、真雄の鍛ったものといえば、信仰的な自信を持って、斬れる、折れない、曲がらぬと、彼は、人にも広言してはばからなかった。それほど熱心な後援者であった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
隠栖いんせいしても一かどの権式も生活力も持っているが、これが奈良の裏町あたりへゆくと、ほとんど、腰のものの中身まで売りはたいたような、ほんとの無職武士がうようよいて
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その元の切り口は、はさみったのでもないし、小刀こづかとも思われない。幹は柔軟な芍薬のそれではあるが、やはり相当な腰のものを用いて切ってあるものと武蔵は見たのである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうならそうと、最初から相手の名をいえば、おれだって、こんなものは抜きゃあしねえ」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
刃がかりを得た切れものはみているまにも、必死に躍って、たちまち切れ目をひろげてきた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、他ならぬこしもの、一時の戯れに過ぎまいと、彼は深く気にも懸けなかった。そして日が暮れる頃おい、常の通り食事後の服薬一服、水と共にゴックリのんで床につく。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ともなわれるまま庭園の四阿亭あずまやに入って、こしものや荷物を下ろし、ふたりはあるじを待っていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こしものを、手に、草履をぬいで、上がりかけたのである。すると、お蔦の後ろに、青々とり上げた講武所びたいと、するどい眼をもった健吉の顔が、いつの間にか、立っていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と嘆声を洩らした新九郎は、俄かにキッとなって、腰のものを引ッさげて立ち上がり
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「では、拙者の腰のものには、そんな悪気が御亭主に感じられたのではありませんか」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
睨み負けしたように城太郎がつぶやいて、かなり長い腰のものを抜いて見せた時である。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いまは申すしかおざりますまい。直義殿の臣淵辺義博におざりまする。いずれはここへ寄する北条遺臣どものやいばにお伏しあらんよりは、ねがわくば、直義殿より差し上げたてまつるもの
と腰のものなどらせて帰したということが——この春にはあった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はや、そこが御門前。法なればお腰のものをお預かり申したい」
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いいところへ来てくれた。お前の腰のものを貸せ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
腰のものを手に抱いて、乗物の内へはいりました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「——いいものを持っている」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)