一層いつそ)” の例文
一層いつそ此方こつちから進んで、直接に三千代みちよを喜ばしてやる方が遥かに愉快だといふ取捨の念丈は殆んど理窟を離れて、あたまなかひそんでゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
鼠色ねずみいろそらはどんよりとして、ながるゝくもなんにもない。なか/\晴々せい/\しないから、一層いつそ海端うみばたつてようとおもつて、さて、ぶら/\。
星あかり (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
『さうだ、一層いつそ死んでやらうかしら。純真な男性の感情を弄ぶことが、どんなに危険であるかを、彼女に思ひ知らせるために。』
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
『一升五合位なもんでせう。皆下地のあつたところへ酒が悪かつたから、一層いつそ利いたのですよ。』
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
けふは頭が朦朧もうろうとして不愉快でまらない。一層いつそのこと下宿住ひをしてもいいと思立つて、午前中から、教室から程遠くない所といふ見当を附けて下宿を見廻つて歩いた。
南京虫日記 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
一層いつそ事実らしいものがなかつたら伝説になつてしまふ所だつたのでせう。事実といふことより伝説の方が何回でも繰返すのですから伝説の世界に這入つた方が広く長い命を持つて来るわけです。
真間・蘆屋の昔がたり (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
「心配するな、俺はもう何と云はれたつて姦通者に相違ないのだ、皆が皆寄つてたかつて苛めるならもつといぢめろ、もつといぢめろ、一層いつその事ぐいと銀の槍でも突き通せ。」おまへの心はもうその時犇と優しい Tinka John の身体を
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
うはさらなかつた隧道トンネルこれだとすると、おとひゞいた笹子さゝご可恐おそろしい。一層いつそ中仙道なかせんだう中央線ちうあうせんで、名古屋なごや大𢌞おほまはりをしようかとおもつたくらゐ。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分が彼女を忘れるためには、彼女の存在を無くするか、自分の存在を無くするか二つに一つだと思ふ。……さうだ、一層いつそ死んでやらうかしら。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
つぎに、一層いつそ洋行する気はないかと云はれた。代助はいでせうと云つて賛成した。けれども、これにも、矢っ張り結婚が先決問題としてて来た。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
……此處こゝます途中とちうでも、しててばひとる……たもとなか兩手りやうてけば、けたのが一層いつそ一片ひとひらでも世間せけんつてさうでせう。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
宗助そうすけはらなかで、昨夕ゆうべやう當途あてどもないかんがへふけつて、なうつからすより、一層いつそそのみち書物しよもつでもりてはうが、要領えうりやう捷徑ちかみちではなからうかとおもいた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
一層いつそのこと、東京へお帰りになつたら何うでせう。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
わたし一層いつそ藥研やげん生肝いきぎもをおろされようとも、お醫師いしや母屋おもやはうまうかとおもひました。和尚をしやう可厭いやらしさに。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
妹の始末さへ付けば、当分下宿してもいです。それでなければ、又何所どこかへ引越さなければならない。一層いつそ学校の寄宿舎へでも入れ様かと思ふんですがね。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
まへさん、お正月しやうぐわつからうたうたつてるんぢやありませんか。——一層いつそ一思ひとおもひに大阪おほさかつて、矢太やたさんや、源太げんたさんにつて、我儘わがまゝつていらつしやいな。
大阪まで (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
じつを云ふと、二百円は代助に取つて中途半端ちうとはんぱたかであつた。是丈これだけ呉れるなら、一層いつそ思ひ切つて、此方こつち強請ねだつた通りにして、満足を買へばいゝにと云ふ気もた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
むしのやうだとつたが、あゝ、一層いつそ、くづれたかべひそんだ、なみ巖間いはまかひる。——これおもふと、おほいなるみやこうへを、つてつて歩行あるいた人間にんげん大膽だいたんだ。
間引菜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「もし駄目だめなら、ぼく學校がくかうめて、一層いつそいまのうち、滿洲まんしう朝鮮てうせんへでもかうかとおもつてるんです」
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ一層いつそのこと、萬事ばんじ御米およねけて、ともくるしみをわかつてもらはうかとおもつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)