こま)” の例文
久我鎮子くがしずこが提示した六こまの黙示図は、凄惨冷酷な内容を蔵しながらも、外観はきわめて古拙な線で、しごく飄逸ユーモラスな形にかれていた。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
五六人殘つた關係者は、大廣間の隅に引つ込んで、劇の一とこまを眺めるやうに、この不思議な夫婦の演出を見て居ります。
銭形平次捕物控:315 毒矢 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
気がつくと誰かがそれをのこぎりで切倒していたのだが、今、青空を背景に斜に倒れてゆく静かな樹木の一瞬の姿は、フィルムの一こまではないかとおもわれた。
美しき死の岸に (新字新仮名) / 原民喜(著)
これは、感性的・主観的にだけ流れてきていた日本の現代文学史の中で注目される一こまである。
彼はダヴィデとサウルの邂逅かいこうを取り扱いたかった。そして人物二人の交響曲の一こまに立案した。
あれは、一秒間に十六こまとか二十齣とかの規定があって、画面がちょうどレンズの前に一杯に入ったときだけ、光源から光がフィルムをとおして、映写幕のうえにうつるのです。
鬼仏洞事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
寝ると、起きると、心持ち好くこの一こまを繰り返した。
寄席 (新字新仮名) / 正岡容(著)
あの高慢な男がそれさへも、お能の仕草の一とこまのやうで、平次は兎も角、八五郎はたまらずに、プーと吹き出すのです。
あわれ幻燈の絵のひとこまとも思し眺め給えや。
円朝花火 (新字新仮名) / 正岡容(著)
その翌る日の朝、錢形平次の家へ飛び込んで來た八五郎は、身振り手振りで、音次郎お京心中の一こまを報告するのです。