飯倉いいぐら)” の例文
一息に上って来たので、伊織はつぶやきながら、芝の海や、渋谷、青山の山々、今井、飯倉いいぐら、三田、あたりの里を、ぼんやり見廻していた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりは、それまでは飯倉いいぐら烟草たばこ屋の二階に、一緒になって間もなくの、あんまり親しくするのもはずかしいような他人行儀の失せ切れない心持でくらしていた。
果樹 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
あの火口と硫黄をつけた稽古矢を、飯倉いいぐら巴町ともえちょうの弓師に見せて来るがいい、——誰があつらえた矢か解るだろう。
やがて、そこの地域をぬける、淋しい溜池下ためいけしたである。それを右手に、唖は、霊南坂れいなんざかを登って、やがてまた、飯倉いいぐらの屋敷町の方へだらだらと降りた。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ガラッ八は飯倉いいぐらへ用事で来たついでに、ここまで足をして、千輪咲や原始的な細工物や、百姓家の畑に育ったままの菊を眺めて、引返したところをあやかしの網に引っ掛ったのでした。
はるか西方に豊島としまヶ岡や飯倉いいぐらの丘陵(後の芝公園附近の高台)が半島のような影をいて望まれ、その方角に、富士の噴煙が、あざらかに眺められた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それは今、登って来る時に見て来た、飯倉いいぐらの大神宮さまだった。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飯倉いいぐらか——桜田か——いや白金の下屋敷が、最も、堅固)
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)