頸巻くびまき)” の例文
旧字:頸卷
かばんから毛糸の頸巻くびまきを取り出し、それを頸にぐるぐる巻いて甲板に出て見た。もう船は、少しも動揺していない。エンジンの音も優しく、静かである。
佐渡 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「雪なんぞはもうありあしないだろう。」寒がりのK君はうちの中でも頸巻くびまきをしたままで、小屋から出て来ようともせずに僕たちを促した。「早くはいりたまえ。」
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
紳士は被っていた無縁帽カルツーズをぬぎすてると、虹色の毛編けあみ頸巻くびまきを解いた——こういう頸巻は、女房持ちの男には、細君が手ずから編んで、ちゃんと巻き方まで教えてくれるものだが、独身者には一体
そうして、この淡い牡丹色の毛糸は、いまからもう二十年の前、私がまだ初等科にかよっていた頃、お母さまがこれで私の頸巻くびまきを編んで下さった毛糸だった。
斜陽 (新字新仮名) / 太宰治(著)
K君たちもそこまでちょっと送ろうといって頸巻くびまきをしたり、外套がいとうをきたりしだしていた。もういいからとことわっても、一しょに小屋を出た。ボブもあとからくっついてきた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
まごころを蹂躙じゅうりんするような悪漢は、のろって、のろって、のろい殺してやるから、そう思え! なんて、寒くない? 吉田は、寒いでしょう? その頸巻くびまき、いいわね
律子と貞子 (新字新仮名) / 太宰治(著)