闃寂げきせき)” の例文
棚の物がかすかにこたえるのを見て、また例の日だなと合点する、やや慣れた心持が現れている。それが冬の夜長の闃寂げきせきたる気分と合致しているように思う。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
「大丈夫鳴きます。あの鳴き声は昼でも理科大学へ聞えるくらいなんですから、深夜闃寂げきせきとして、四望しぼう人なく、鬼気はだえせまって、魑魅ちみ鼻をさいに……」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
次第に夜が更けて行き、室内一統眠ったとみえ、四辺闃寂げきせきとして音もなくなった。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その下に照し出された狂人の解放治療場は闃寂げきせきとして人影もなく、今朝けさまでは一面の白砂ばかりの平地に見えていたのが、今は処々に高く低く、枯れ草を生やした空地となって、そのまん中に
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
今と違って時計の刻む音も何も聞えず、天地は真暗であるのみならず、極めて闃寂げきせきとしてしずまり返っている。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
しかし谷間は闃寂げきせきとして立ち騒ぐような気勢もない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人の顔の赤く描き出された背後には、闃寂げきせきたる寒夜の闇がはてしなく横わっている。平凡なようで力強い句である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)