鉄御納戸てつおなんど)” の例文
雨の降る日だったので、私は無論かさをさしていた。それが鉄御納戸てつおなんど八間はちけんの深張で、上からってくるしずくが、自然木じねんぼくを伝わって、私の手をらし始めた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
客は、先生の判別を超越した、上品な鉄御納戸てつおなんどの単衣を着て、それを黒のの羽織が、胸だけ細くあました所に、帯止めの翡翠ひすゐを、涼しい菱の形にうき上らせてゐる。
手巾 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
夏目先生が千駄木せんだぎにお住居すまいであったころ、ある日夕立の降るなかを、鉄御納戸てつおなんど八間はちけん深張ふかはりかさをさして、人通りのない、土の上のものは洗いながされたような小路を
大塚楠緒子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
兄は糸織の小袖こそで鉄御納戸てつおなんど博多はかたの羽織を着ている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)