野辺山のべやま)” の例文
富士の見えるのはこゝ迄で、それからは全くの高台の感じの野辺山のべやま原となる。八月は秋草が美しい。正月二日は白一色であるが雪の深さは一尺あるかなしである。
釣十二ヶ月 (新字旧仮名) / 正木不如丘(著)
「ファラリース」の血を分けた馬が三十四頭という呼び声になりました。殿下はお喜びのあまり、ある年の秋、野辺山のべやまはらへと仰せいだされたという話が残っています。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
夜の空気は稀薄で、痛いように冷え切っていた。僕たちはあすは何処かもっと山の方——菅平すがだいらか、野辺山のべやまあたりまで出かけ、妻がこちらに来る頃にまた戻ってくることを約束して林のはずれで別れた。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その中でも、千曲川の上流から野辺山のべやまが原へかけては一度私が遊びに行ったことのあるところだ。その時は近所の仕立屋の亭主と一緒だった。この旅で、私は以前の記憶を新しくした。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小母さんの立話を聞けば、川上かはかみといふ辺鄙へんぴな村の方で、ある若い百姓が結婚したばかりに出征することゝ成つた。お嫁さんは野辺山のべやまはらまで夫を見送りにいて来て、泣いて別離わかれを惜んだ。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
その後亜米利加アメリカ産の浅間号という名高い種馬も入込みました。それから次第に馬匹の改良が始まる、野辺山のべやまが原の馬市は一年増に盛んに成る、そのうわさがそれがしの宮殿下の御耳まで届くように成りました。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)