蹲踞そんきょ)” の例文
片手を岸なる松柳にかけたるもの、足を団石だんせきの上に進め、猿臂えんぴを伸ばせる者、蹲踞そんきょして煙草を吹く者、全く釣堀の光景のまゝなり。
東京市騒擾中の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
この家の長男なる義太郎は、正面に見ゆる屋根の頂上に蹲踞そんきょして海上を凝視している。家の内部から父の声がきこえる。
屋上の狂人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分のために敷かれた布団の上に自分が乗らぬ先から、断りもなく妙な動物が平然と蹲踞そんきょしている。これが鈴木君の心の平均を破る第一の条件である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右に三窓を隔てて小窓の頭が蹲踞そんきょし、左に続くやや低いが根張りの大きい頭の尖った二、三の峰は、近習であろう。
黒部川を遡る (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
お由羅は、壇上へ上って、蹲踞そんきょ座と呼ばれている坐り方——左の大指おやゆびを、右足の大指の上へ重ねる坐り方をして、炉の中へ、乳木と、段木とを、積み重ねた。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
このさまを見たる喜左衛門は一時いちじの怒に我を忘れ、この野郎やろう、何をしやがったとののしりけるが、たちまち御前ごぜんなりしに心づき、冷汗れいかんうるおすと共に、蹲踞そんきょしてお手打ちを待ち居りしに
三右衛門の罪 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)