誘拐いうかい)” の例文
その中には誘拐いうかいや、迷子や、記憶きおく喪失さうしつや、借金逃れもあつたでせうが、昔の人はそんな詮索せんさくをする氣もないほど鷹揚だつたのでせう。
もしこれが誘拐いうかいでなしに、自発的だとすれば、何処かの淵川ふちかはにでも身を投げやしないか。世間でも何も知らないけれど、その奥に何かこんがらかつた事情があつたのではないか。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
何と云ふ性悪しやうわるの女だつたのだらう。その情夫と一しよにやつて来て、彼を脅迫するのであつた。彼は泣き出しさうな顔で下を向き、姦通とか誘拐いうかいとか貞操とか云ふ言葉をきいてゐた。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
芸妓げいぎの花吉を誘拐いうかいして内々自分の妾にしたのでも判つて居るぢやないか
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
此夏から起つた誘拐いうかいで、數はさして多くはありませんが、仕事が如何にも巧妙かうめうで慘忍で、江戸つ子達の義憤の血を沸き立たせるには充分なものがありました。
何うしても誰か悪者か何かに誘拐いうかいされたに相違ない。警察でも最初の鑑定は主としてその方面に傾いた。しかし、その管内は平和で、此頃、さうしたわるい者が他から立廻つた跡もない。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
戻つた娘から聽くと、誘拐いうかいするのは念入りに化粧をして、髮の毛の多い優しくて綺麗な『姉さん』で、子供の觀察で年の頃はよくわかりませんが、二十五は越して居ない樣子です。
殺した惡者がお孃樣も誘拐いうかいしたんでせう、お願ひですから搜してやつて下さい、親分
組とは別々に誘拐いうかいされ、何んのかゝはりもないことは唯今まで申上げた通りで御座いますが、私が行方知れずになつて三十日も經たないうちに、助十郎殿と祝言をする氣になつたお禮殿とは
「すると、矢張り謀叛ものですね。麻布赤坂あたりに下屋敷を持つて居る大名が、兵粮丸を手に入れるか何うかして、本草家を誘拐いうかいしてそれを作る積りでせう。これは一日も油斷がなりません」
自分達を誘拐いうかいしたのはお紋ではないと言ひきるのです。
「お萩を誘拐いうかいしたのは」