誑惑きょうわく)” の例文
他力易行と教えて来たが、思いにさる事実の応験。愛慾泥裏の誑惑きょうわくの男と女がそのままに、登る仏果の安養浄土、恐ろしき法力ではあるなあ。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
元箱根村より箱根町の間は、樹木茂りて昼もなお暗きほどなるが、そのころここにしき狐が住んでいて、日の暮れた後に通行人を誑惑きょうわくするという評判があった。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
古来その中に老狐ろうこ住すと伝え、その傍らを通過せるもの往々誑惑きょうわくせられて、家に帰らざることがある。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
早く妻にわかれてからは、異性には全然関心を持たなかつた。それは彼の最も世の中で価値ありとする品とか気位とか悧巧りこうとかを誑惑きょうわくする魔性ましょうのものにほかならなかつた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
かかる迷信教が行われ、妄説、詐術をもって愚民を誑惑きょうわくするため、愚民はますます迷信に迷信を重ぬるに至り、教育、道徳の進路を妨げ、社会に害毒を流すようになるを免れぬ。
おばけの正体 (新字新仮名) / 井上円了(著)
まず物理的方面にては、狐狸その体に、果たしてよく人を誑惑きょうわくし得る知能ありやいかんを探り、またその挙動に、果たして怪しむべきところありやいかんを知ることが必要である。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
その意義、茫然ぼうぜんとして一定し難し。あるいは曰く、「幽霊すなわち妖怪なり」と。あるいは曰く、「天狗てんぐすなわち妖怪なり」と。あるいは曰く、「狐狸こりの人を誑惑きょうわくする、これ妖怪なり」
妖怪学講義:02 緒言 (新字新仮名) / 井上円了(著)
これに乗じてますます愚民を誑惑きょうわくして私利を営まんとするものあらんことを恐れ、当時諸方の通信を請うて、ことさらこの一事を捜索検討し、自宅においても前後数回、試験を施したることありき。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)