表面おもてむき)” の例文
亡き父のいましめで、お露との恋は避けてはいたが、それはただ表面おもてむきだけで、彼の内心は昔と変らず彼女恋しさに充ち充ちていた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし今度のは——こう謂っちゃさもしい様ですが——礼金が欲しさに働きましたので、表面おもてむきはともかく、謂わば貴下に雇われたもおなじでございます。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
んで下さい、阿呆あほうな事を、人情じゃから愚僧わしは許すが表面おもてむきになれば只は許さんぜ、何処までも届け出ますじゃ、出家という者はな、お前なぞは分らんから云って聞かすが
何さ、内々はどうでもいいが、表面おもてむきの所をよく注意しなけりゃいけんぜ。姑御しゅうとごにはなれなれしくさ、なるたけ近くして、婿殿にゃ姑の前で毒にならんくらいの小悪口わるくちもつくくらいでなけりゃならぬ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
が、これは表面おもてむきで、お色と別れた寂しさを、まぎらそうというのが真相であった。途中で悠々一泊し、その翌日三崎へ着いた。半漁半農の三崎の宿は、人情も厚ければ風景もよかった。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
表面おもてむきは夫婦と云ってはいるが、体は他人の間柄であった。
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)