蝙蝠安こうもりやす)” の例文
と言う言葉の終らぬ先に、なるほど、三下氏の頬っぺたに吸いついた文久通宝子、まるまっちい蝙蝠安こうもりやすが出来上る。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ハンティングを冠った蝙蝠安こうもりやすという恰好、薄寒そうな双子の素あわせ、三尺を前下りに、麻裏を突っかけた、それにしても、恐ろしく安直な悪党わる、眼だけは不思議にギョロリと光ります。
悪人の娘 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
局部内容発現の芸術でもっとも旨かったのは蝙蝠安こうもりやすですな。あれは旨い。本当にできてる。ゆすりをした経験のある男が正業について役者になったんでなければ、ああは行くまいと思いました。
虚子君へ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしは本所の寿座ことぶきざで、家橘の与三郎、源之助のおとみ、伝五郎の蝙蝠安こうもりやすを見たことがあるが、いわゆる持味で、与三郎の体に持っている自然の柔かみには他人の企て及ばないところがあった。
明治劇談 ランプの下にて (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
松助のやる蝙蝠安こうもりやすのような、変に気取った声色こわいろをして、襖をもう二三寸あけました。そうすると、お銀様の部屋の行燈あんどんの光で、忍んで来た奴の正面半身が見えました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかし相手の方もだんだんその事情を知って来たので、この頃では以前のように此の攘夷家をあまり恐れないようになった。いわゆる攘夷家も蝙蝠安こうもりやすや与三郎と同格に認められるようになって来た。
半七捕物帳:40 異人の首 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)