肝魂きもたま)” の例文
「が、申しておく、あの服折や兜は、申さば中村新兵衛の形じゃわ。そなたが、あの品々を身に着けるうえは、われらほどの肝魂きもたまを持たいではかなわぬことぞ」
(新字新仮名) / 菊池寛(著)
……肝魂きもたまが消え失せるとはこの時の私の事であったろう。頭の中がグワーンと鳴った。眼の前に灰色のもやがズ——ウと降りて来た。立ち上ろうとしたが膝が石のように固まって動かない。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いや、もう、肝魂きもたまを消して、さきに死骸の傍を離れる時から、那須颪なすおろし真黒まっくろになって、再び、日の暮方の雪が降出したのが、今度行向う時は、向風の吹雪になった。が、寒さも冷たさも猟夫は覚えぬ。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)