老母おふくろ)” の例文
わしは長良川ながらがわの上流を、十里余ものぼって、たった独りの老母おふくろがいるせき宿しゅくの在、下有知しもずちという草ぶかい田舎いなかへ一本槍に帰って来た。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ふウム、一理あるナ、——所で近来素敵すてき別嬪べつぴんが居るぢやねエか、老母おふくろ付きか何かで」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
するのはもう何日も前から分っているじゃないか、そりゃお前さんの勝手だ。こっちはそんなことは知らない。早くこの老母おふくろの家を出て行っておくんなさいッ……さあ出て行っておくんなさいッ
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と、再会の日を心に誓い、忘れたこともなかったが、遠国へ行く事は、老母おふくろの為に思い立てず、つい月日を過していた。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「承れば先生、兼吉の老母おふくろを御世話なされまするさうで、恐れ入りました御心掛で」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
屍体したいの肌は、もう葡萄色ぶどういろになっていた。わしは、わしの愛執あいしゅうのために、老母おふくろのそうした醜い顔をいつまでもこの世にさらしておくのを罪深く思った。
茶漬三略 (新字新仮名) / 吉川英治(著)