生乾なまがわ)” の例文
なにしろ彼も三日三晩寝ないので、生乾なまがわきの荒壁みたいな顔をしていたのである。眼は真っ赤だし、胸もはかまも泥まみれだった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雨で湿しっけた、生乾なまがわきに似た壁の匂いがムッと鼻を衝いて、また小銃が、砲声が、ワッワッワーッというような何とも分らない大ぜり合いのような声々が、近まってきてはまた遠のいていった
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
生乾なまがわきの着物を抱え、彼女を背なかに負ぶって、乾児こぶんの男が、半瓦のあとにいてそこを立ち去ると、往来につかえていた人垣も、ぞろぞろと東西へ崩れだした。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生乾なまがわきの朱泥のうえに、強く太く引いた描衣びょういの線のつよさに打たれて、凡手ではない——武蔵の画ではなくても——これは凡画ではないと、なお見ているうち、題詩の文字に
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)