猿江さるえ)” の例文
彼等の墓も寺と一しよに定めし同じ土地に移転してゐるであらう。が、あのじめ/\した猿江さるえの墓地はいまだに僕の記憶に残つてゐる。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
もっと深川小名木川ふかがわおなぎがわから猿江さるえあたりの工場町こうじょうまちは、工場の建築と無数の煙筒えんとうから吐く煤烟と絶間なき機械の震動とによりて、やや西洋風なる余裕なき悲惨なる光景を呈しきたったが
弦吾と同志帆立とは、酔漢の頭を飛び越えると足早あしばや猿江さるえ交叉点こうさてんの方へ逃げた。
間諜座事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三年経っても音沙汰がない所へ、それを聞いてから、日は分りませんがわたくしもまア出た日を命日としまして、猿江さるえのお寺へ今日お墓参りをして、其処に埋めた訳でも有りませんけれども
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僕は萩寺の門を出ながら、昔は本所ほんじよ猿江さるえにあつた僕の家の菩提寺ぼだいじを思ひ出した。この寺にはなんでも司馬江漢しばかうかん小林平八郎こばやしへいはちらうの墓のほかに名高い浦里時次郎うらざとときじろう比翼塚ひよくづかも残つてゐたものである。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)