犠牲者ぎせいしゃ)” の例文
彼女は、いつのまにか静まり返って了った押入れの前に立って、犠牲者ぎせいしゃの死をとむらう代りに、懐しい恋人のおもかげを描いているのだった。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
リカルドがむちを手に持って立っていると、とうとう五人までの犠牲者ぎせいしゃが一列にかれの前にならべられることになった。
傴僂という字なら、彼は、五つの異った国の字で書くことが出来るのだが。ナブ・アヘ・エリバ博士は、この男を、文字の精霊の犠牲者ぎせいしゃの第一に数えた。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
刺戟しげきするのかなア。だが待ちたまえ、今日は何も吸血鬼が犠牲者ぎせいしゃを出したという新聞記事を見なかったぜ。はッはッ、とうとう君に一杯いっぱいかつがれたらしい。はッはッはッ
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、いうような、定かならぬうめきが、聴えたようであったが、闇を掴むかの如く、犠牲者ぎせいしゃの両手が、伸びて、ッて、やがて、全身を突っ張ったまま、ドタリと斜めうしろにたおれた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その結果、一箇の無残むざんな焼死体が発見せられた。背骨からしてすぐ判定がついて、犠牲者ぎせいしゃは気の毒な研究生小山すみれであることが分った。しかし美貌の男も美女も、現場に骨を残していなかった。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)