片破月かたわれづき)” の例文
……真黒な雲の間から時々片破月かたわれづきの顔を出すのが、恰度やつれた母の顔の様ぢやないか。……母を思へば今でも泣きたくなるが。
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
眼を開けると、片破月かたわれづきに照らされた天幕の布が夜露を浴びて、しっとりと重く垂れている。湯川の谷では杜鵑ほととぎすさかんに鳴いて、断続した水声がその間からかすかに聞える。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
途端に裸ながらの手燭てしょくは、風に打たれてと消えた。外は片破月かたわれづきの空にけたり。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
顧みれば片破月かたわれづきの影冷ややかに松にかかれり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
片破月かたわれづきが時々木の間を洩れて、覚束ない光を投げるが少しも頼りにはならない。不知案内の暗の山路を足探りに探って登ったことも下ったことも三人は未だ経験していなかった。
奥秩父の山旅日記 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)