無気なげ)” の例文
旧字:無氣
「旦那様、御心配なさいますな。私が船を取って参ります。向河岸まで行くのは、何んの仔細は御座いません」と事も無気なげに小虎が云った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
つくだの者で四十男、伊勢新の釣に網のお供をさせられますが、金にはなっても、人も無気なげな豪勢振りが、少し小癪こしゃくに障っているらしい口吻くちぶりです。
楽な方へ楽な方へと廻つてばかりゐたのに比べて、齢の若いとは言ひながら、松子の何の不安も無気なげおとなしく自分の新しい境遇に処して行かうとする明い心は
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
心の恐ろしく複雑いりくんで、人の口裏を察したり、眼顔を読むことの驚くほどはしこい、それでいてあどけないような、何処までも情け深そうな、たより無気なげで人に憐れを催さすような
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
笹野新三郎も、銭形の平次も、近頃人も無気なげに出没する怪盗——風のごとく去来するから世間では風太郎かぜたろうと言っておりますが——には全く手を焼いてしまいました。
悪辣あくらつと言おうか、実に人も無気なげなるやり口だったのです。