無地むじ)” の例文
ただ無地むじと模様のつながる中が、おのずからぼかされて、夜と昼との境のごとき心地ここちである。女はもとより夜と昼との境をあるいている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そのほのぐら長屋門ながやもんをくぐって、見知みしらぬ男がふたりいそいそとはいってくる。羽織はおりはもめんらしいが縞地しまじ無地むじかもわからぬ。
告げ人 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
もっと板を分厚くし模様を単純にするなら、力を得てくるでありましょう。近頃は象嵌ぞうがんも試みますが図案がありきたりで、無地むじものの方がずっとましであります。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
洋服の表は、はでなしまですが、うらはじみな無地むじの茶色です。うらがえしても、ちゃんとした、せびろなのです。変装のためにつくった、表もうらも使える洋服なのです。
怪人と少年探偵 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
白い無地むじの封筒に入れたプクーンとしたのをすぐ前のポストに入れに自分で出かけた。
千世子(二) (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
此時も明治四十一年の春初めて来た時着て居た彼無地むじの木綿羽織だった。「乗れませんでしたか」「満員だった」「今車を呼んで来ます」「何、構わん、構わん」と翁が手をる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
……それは、三十四五の、たいへんおおまかな感じの夫人で、大きな蘭の花の模様のついたタフタを和服に仕立て、黄土色の無地むじの帯を胸さがりにしめているといったふうなかたです。
キャラコさん:08 月光曲 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)