漂浪ひょうろう)” の例文
けれども私が家を出て、方々漂浪ひょうろうして帰って来た時には、その喜久井町がだいぶ広がって、いつの間にか根来ねごろの方まで延びていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうも早や、おれも永らく身世しんせい漂浪ひょうろうの体じゃ、今まで何をして来たともわからぬ、これからどうなることともわからぬ。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
よしんば自分でいくら身を落すつもりでかかっても、まさか親の敵討かたきうちじゃなしね、そう真剣に自分の位地いちてて漂浪ひょうろうするほどの物数奇ものずきも今の世にはありませんからね。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかも彼は根のしまらない人間として、かく漂浪ひょうろう雛形ひながたを演じつつある自分の心をかえりみて、もしこの状態が長く続いたらどうしたらよかろうと、ひそかに自分の未来を案じわずらった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
要するに僕なんぞは、生涯しょうがい漂浪ひょうろうして歩く運命をもって生れて来た人間かも知れないよ。どうしても落ちつけないんだもの。たとい自分が落ちつく気でも、世間が落ちつかせてくれないから残酷だよ。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)