まろ)” の例文
お母さんが慰めるやうな調子でかう云ふと美津子は何と答へていゝか解らなくなつてしまつて——と、見る間に涙がほろほろと頬をまろび落ちて来ました。
お父さんのお寝坊 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
狂ひ出でんずる息をきびしく閉ぢて、もゆるばかりにいかれるまなこは放たず名刺を見入りたりしが、さしも内なる千万無量の思をつつめる一点の涙は不覚にまろでぬ。こは怪しと思ひつつも婆は
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ふと見ると彼の真ん丸に視張みはって僕の顔をばたきもしないで見詰めている眼眥めじりから、たちまちコロコロと球のような涙がまろび出て、と突然彼はワッと声を挙げて僕を抱き締めた。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)