洟汁はな)” の例文
阿賀妻は海に向いてくンと洟汁はなをかんだ。——だが、これも、移住を思いたった日からのさまざまな齟齬そごのうちの一つかも知れない。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
眼の中に入れても痛くない位可愛がって、振袖を着せたり、洟汁はなんでやったりしているのであった。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そんな噂もありますが、相手は武家の出だから、ツンとして中間上りの喜三さんなんかには洟汁はなも引つかけないさうですよ——さう言へばその武家の娘が殺されたといふぢやありませんか」
そして、ずるずるっと青黒い洟汁はなすすり上げた。
猟奇の街 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
すると、調子に乗ってしゃべり立てていた安倍誠之助もがくんとつまずくものを感じた。才ばしったきれいな額に二本のしわを立て、強く洟汁はなをかむのであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
口を開けっ放しにして天井てんじょうばかり見ているもの、眼をしかめたり閉じたりぐるぐるまわしたりしているもの、洟汁はなを絶えず舌の先ですすっているもの——いちおうは正面を向いて
白い壁 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)