死貌しにがお)” の例文
栄介はその暗欝な病棟の光景は思い浮べるが、竜介の死貌しにがおに対面した記憶はない。おそらく病室に入らせてもらえなかったのだろう。病院の門を入る時、福次郎は
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
見張の男の死貌しにがおはまことにおだやかであったけれども、人間のあらゆる秘密を解き得て死んで行った者のかおではなかった。平凡な、もはや兵隊でない市井人しせいじんの死貌であった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
昔見た映画のスメルジャコフみたいな残忍な笑いが死貌しにがおの鼻のあたりにただよっているのである。私は思わず身ぶるいして目をつむった。寝床の裾のところで、歔泣すすりなきの声が起った。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
肉親の死というものは、そばに立合っていると、悲しみが集中して涙が出るが、城介の場合はそうじゃない。初めに手紙が来て、それから骨だろう。骨だって現地で焼いたものだ。死貌しにがお
狂い凧 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)