歌比丘尼うたびくに)” の例文
実際またその頃から、女の旅をする者がめっきりと減った。歌比丘尼うたびくには市中の売女ばいたとなって、やがてまた跡をおさめてしまった。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
今もなお箕輪心中みのわしんじゅうと世に歌われる藤枝外記ふじえだげき、また歌比丘尼うたびくに相対死あいたいじにの浮名を流した某家のさむらいのように、せめて刹那せつなうるわしい夢に身をはたしてしまった方がと
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
取付虫とりつきむし寿林じゅりん、ふるだぬき清春せいしゅんという二人の歌比丘尼うたびくにが、通りがかりの旅客を一見しただけですぐにその郷国や職業を見抜く、シャーロック・ホールムス的の「穿うがち」をも挙げておきたい。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
あとの附句ではすぐにこれをあの時代の、歌比丘尼うたびくにの身すぎの哀れさに引移したのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
それから久しい以前より問題にしている旅の女性、みことか歌比丘尼うたびくにとかいうものの地方に与えた影響や、験者げんじゃ山伏やまぶしという一派の宗教家の、常人じょうじんの上に振うていた精神的威力など
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)