樸訥ぼくとつ)” の例文
飾り気一点なきも樸訥ぼくとつのさま気に入りてさま/″\話しなどするうち京都々々と呼ぶ車掌の声にあわたゞしく下りたるが群集の中にかくれたり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
貧苦のために痴鈍になったとはいうものの、元来樸訥ぼくとつで優しい気象を彼はもっているのである。
乞食 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
三十年間の金の累積るいせきを彼はこの柳行李に納め続けたのである。ミチは藤三の薄く禿げかかった後頭部を見た。ランニングシャツにパンツ姿の樸訥ぼくとつな後姿に、ミチはたまらない憐憫れんびんを感じた。
刺青 (新字新仮名) / 富田常雄(著)
音作もまた、丑松と弁護士との談話仲間はなしなかまに入つて、敬之進の容体などを語り聞せる。正直な、樸訥ぼくとつな、農夫らしい調子で、主人思ひの音作が風間の家のことを言出した時は、弁護士も丑松も耳を傾けた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)