柩車きゅうしゃ)” の例文
恐ろしい暗黒が地上を蔽うと、ものを考えるたびの恐怖のために私は身震いした、——柩車きゅうしゃの上の震える羽毛飾りのように身震いした。
ただ僕の父の死骸しがいを病院から実家へ運ぶ時、大きい春の月が一つ、僕の父の柩車きゅうしゃの上を照らしていたことを覚えている。
点鬼簿 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
十三号車は、柩車きゅうしゃのように黒い姿をして、最前列の左端に停っていた。おそろしく古い型の箱型自動車だった。
宇宙尖兵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
自分は教会の門前で柩車きゅうしゃを出迎えた後霊柩に付き添って故人の勲章を捧持ほうじするという役目を言いつかった。
B教授の死 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自動車の使用が盛になってから、今日では旧式の棺桶かんおけもなく、またこれを運ぶ駕籠かごもなくなった。そして絵巻物に見る牛車ぎっしゃと祭礼の神輿みこしとに似ている新形の柩車きゅうしゃになった。
西瓜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黒布につつまれた柩車きゅうしゃと、白い旗やはんを立てた寂しい兵列が、哀愁にみちた騎馬の一隊にまもられて、ひそかに長安のほうへ流れて行った——という知らせが物見の者から蜀の陣に聞えた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭には黒い柩車きゅうしゃの羽毛飾りを一面にくっつけ、それをいかにも気取った風にあちこちとうなずいて動かしていた。