摯実しじつ)” の例文
あなたの摯実しじつ、あなたの熱情。——私はこのごろ、五年まへ六年前の世の中のとかく恋しくなることを何うすることも出来ないのです。
井上正夫におくる手紙 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
それでもう少し浮華ふかを去って摯実しじつにつかなければ、自分の腹の中はいつまでったって安心はできないという事に気がつき出したのです。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
想の大、言の美まことに三歎すべきである。これキリスト以前に生まれし摯実しじつなる心霊の来世探究史として、見逃すべからざる箇所である。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
今に幾倍する摯実しじつと熱心と勇気とを以て、一般の労働制度を我我に最も適応したものに鋳直いなおさずには置きません。
平塚さんと私の論争 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
其上池辺君は自分で文学を知らないと云いながら、其実摯実しじつな批評眼をもって「土」を根気よく読み通したのである。
国民の前に自分たちの過去の積悪をじ入ると共に摯実しじつな内省の人に帰らざるを得ないであろう。
鏡心灯語 抄 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
それを予防する摯実しじつな必要からそれを避けているのであり、あるいは結婚もせず親ともならない方がかえって他の事に由って人間の本務——人類の幸福の増加——をより自由に
母性偏重を排す (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
「二郎お前もやっぱりお父さん流だよ。少しも摯実しじつの気質がない」と兄が云った。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
益々ますます婦人労働問題のために摯実しじつな研究と努力とを続けられる覚悟だということです。
新婦人協会の請願運動 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
去れど摯実しじつなる労力によつて得たる結果を尤も高等なる学問を修めて
『文学論』序 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)