懐袍ふところ)” の例文
即ち蕪村は、その藪入りの娘に代って、彼の魂の哀切なノスタルジア、亡き母の懐袍ふところに夢を結んだ、子守歌の古く悲しい、遠い追懐のオルゴールをいているのだ。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
と歌う蕪村は、常に寒々とした人生の孤独アインザームを眺めていた。そうした彼の寂しい心は、いろりに火の燃える人の世の侘しさ、古さ、なつかしさ、暖かさ、楽しさを、慈母の懐袍ふところのように恋い慕った。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
と、悲しみ極まり歌いつくさねばならなかった。まことに蕪村の俳句においては、すべてが魂の家郷を恋い、火の燃える炉辺を恋い、古き昔の子守歌と、母の懐袍ふところを忍び泣くところの哀歌であった。
郷愁の詩人 与謝蕪村 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)