心緒しんしょ)” の例文
この世には、冷静な科学者の心緒しんしょを徹底的に攪乱するほどの不公平な事実があるものだということを、私は、今、つくづくと考えているところです。
地底獣国 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼は何処までも涙で顔をよごさずに、きれいに事を運びたかった。妻の心緒しんしょと自分の心緒とが一つの脳髄の作用のように理解し合って別れたかった。
蓼喰う虫 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
考え出すたびに、昔の自分の事だから遠慮なく厳密なる解剖の刀をふるって、縦横たてよこ十文字に自分の心緒しんしょを切りさいなんで見るが、その結果はいつも千遍一律で、要するに分らないとなる。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)