微温なまぬる)” の例文
微温なまぬるい、歴史的に言へば不思議な一個の結成物たる、役柄をみせて死んでゆくかもしれぬといふことは十分に推量出来ることである。
青年青木三造 (新字旧仮名) / 中原中也(著)
で、た私は起き上った。微温なまぬるい風が麦畠を渡って来ると、私の髪の毛は額へおおかぶさるように成った。復た帽子を冠って、歩き廻った。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
私の身近にあるこの微温なまぬるい、好い匂いのする存在、その少し早い呼吸、私の手をとっているそのしなやかな手、その微笑、それからまたときどき取り交わす平凡な会話
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
お秀にはただ彼の中心にある軽蔑けいべつが、微温なまぬるい表現を通して伝わるだけであった。彼女はもうやりきれないと云った様子を先刻さっきから見せている津田をごうも容赦しなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
自然を対照にして考へて見ると、さうしてじつとして社会といふ微温なまぬるい中に入つてゐることが出来なくなつて来る。社会で必要上からきめた道徳とか、法律とかいふものに満足がされなくなつて来る。
社会劇と印象派 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
消えた炭火の微温なまぬるく残っている光で、ゆかの上に8675