さまよ)” の例文
その幻にひかれて、姫は万法蔵院までさまよい出て、結界を犯した償いに、其処にとどまる。そして化尼ケニに導かれて蓮糸の曼陀羅を織る。
『死者の書』 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ただはいろうはいろうとするらしく丘のうえをさまよってるうちに目がさめた。蒲団からのり出した右腕が冷たくなっていた。ひえびえとした時雨しぐれの朝である。私はすぐに母を思った。
母の死 (新字新仮名) / 中勘助(著)
もっとも彼は、独りこの穴をさまよい出たとしても、目あてのところに行き着くと云う自信は無くしていた。同時に、こうしていればかたわらの鋸屋と同じ運命になるかも知れぬともおそれた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
猛獣や毒蛇どくじゃおびやかされることもあった。夜は洞穴ほらあな寂寞せきばくとして眠った。彼と同じような心願しんがんを持って白竜山へ来た行者の中には、麓をさまようているうちに精根しょうこんが尽きて倒れる者もあった。
仙術修業 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あすこからジェコブ・マアレイの幽霊は這入って来たのだ! この隅にはまた現在の聖降誕祭の精霊が腰掛けていたのだ! この窓から俺はさまよえる幽霊どもを見たのだ! 何も彼もちゃんとしている