寄切よぎ)” の例文
B子は樽野の友達の妹で、時々樽野達と往来ゆききしてゐる仲だつた。——見るからに偽善者らしい面持をして洒々と車を飛ばして行く母の姿に、樽野は眼の先を寄切よぎられた。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
人々の怖ろしく凄まじい形相が、柘榴のつぶてのやうに私達の眼前を寄切よぎつて行つた。私は、思はずよろめいて母の袂に縋つた。人々の眼は、極度に視張られて血走つてゐた。
鱗雲 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
彼等は急な坂を手を引いてくだつて行つた。競馬場を寄切よぎつて、向方の村道へ出るのであつた。金時山、足柄山、阿夫利山などゝいふ山々が澄み切つた空に晴々とそびえてゐた。
熱い風 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)