大人寂おとなさ)” の例文
撫子は去年志賀の里から私の許に引き取られてきた頃から見れば、だいぶ大人寂おとなさびた美しさも具え出して来てはいる。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
古い池に枝垂しだれた桜は、年毎に乏しい花を開いた。その内に姫君も何時いつの間にか、大人寂おとなさびた美しさを具へ出した。が、頼みに思つた父は、年頃酒を過ごした為に、突然故人になつてしまつた。
六の宮の姫君 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
すっかり大人寂おとなさびた私にまで、何んとなく無性に悲しいような、それでいて何んともいえずなつかしい、誰かに甘え切りたいような気のされるのは、思えば
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
それから、どうした事やら、不思議なほどあの方はしばしばお見えになるようになった。この頃急に大人寂おとなさびてきたような道綱があの方のお心をもいたものと見える。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一番最後に、いつまでも僕達のそばに立つたままそれを一本ぎとつて手でいぢつてゐた、もう一人の大人寂おとなさびた女友達も、とうとうその花の傍らへ腰を下ろした。
牧歌:恩地三保子嬢に (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)