咄嗟あなや)” の例文
見る間に出行いでゆく貫一、咄嗟あなや紙門ふすまは鉄壁よりも堅くてられたり。宮はその心に張充はりつめし望を失ひてはたと領伏ひれふしぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
にはかに千葉に行く事有りて、貫一は午後五時の本所ほんじよ発を期して車を飛せしに、咄嗟あなや、一歩の時を遅れて、二時間のちの次回を待つべき倒懸とうけんの難にへるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
氷の如く冷徹ひえわたりたる手をわりなくふところに差入れらるるに驚き、咄嗟あなやと見向かんとすれば、後よりしかかかへられたれど、夫の常にたしなめる香水のかをりは隠るべくもあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)