印絆纏しるしばんてん)” の例文
盆暮の仕着せ、折々の心づけ——あの店のさかんな時分には、小竹の印絆纏しるしばんてんや手拭まで染めさせて、どれ程多勢の人をよろこばせたことか。
食堂 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それでも祭の日なんかに肩上げのした印絆纏しるしばんてんを着て頭を剃った「餓鬼」を見ると、峰吉は、植峰の家もおれでとまりだなあと思ったりした。
舞馬 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
……浅黄色あさぎいろ事業服しごとふくを着た大男が自動車の上から飛び降りて、タイヤの蔭に手を突込みながら、紙のように血の気を失くした印絆纏しるしばんてんの小僧を
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
お玉の内へも或る日印絆纏しるしばんてんを裏返して着た三十前後の男が来て、下総しもうさのもので国へ帰るのだが、足を傷めて歩かれぬから、合力ごうりきをしてくれと云った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
自分を驚かせたのは火事よりも大島爆発のうわさであった。自分はそれを印絆纏しるしばんてんの職人ふうの男から聞いた。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
ことしの十月十三日の午後彼は上野へ出かける途中で近所の某富豪の家の前を通ったら、玄関におおぜいの男女のはき物やこうもりがさが所狭く並べられて、印絆纏しるしばんてん下足番げそくばんがついていた。
野球時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
背中を向けると、若い船頭の印絆纏しるしばんてん——
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
印絆纏しるしばんてんを着た男が、渋紙の大きな日覆ひおいを巻いている最中であった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)