北廓なか)” の例文
夜はぞろぞろ寄席へ押しかけたり、近所の牛肉屋や蕎麦屋そばやで、火を落すまで酒を飲んだりした。北廓なかの事情に詳しい人や、寄席仕込みの芸人などもあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
北と言えばさしずめ北廓なかだが、手前と銭は敵同士、やっぱり山谷の伯父貴の家でお膳の向うで長談義にしびれを切らしたとしか思えねえじゃねえか、え、こう、勘。
ほんのこったがわっしゃそれご存じのとおり、北廓なかを三年が間、金毘羅こんぴら様にったというもんだ。ところが、なんのこたあない。はだ守りを懸けて、夜中に土堤どてを通ろうじゃあないか。
外科室 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さても、どれほどの好男いいおとこに生れかわって、どれほどの金子かねを使ったら、遊んでこれだけ好遇もてるだろう。——しかるにもかかわらず、迷いは、その叔母さんに俥賃を強請ゆすって北廓なかへ飛んだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)