其男それ)” の例文
其男それを悪く言うのは、自分の古傷に触られる心地がするので、成るたけそっとして置きたいようである。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
其男それの頭へ載せてやってそうして三帰五戒さんきごかいを授けて悪業あくごうの消滅するように願を掛けてやりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
僕は一も二もなく、千代子には其男それが好いじゃないかと云った。田口はまだどこかに慾があるのか、または別にかんがえを有っているのか、そうするつもりだとは明言しなかった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「丁度、あれは日比谷で焼討のあった時であったから、私は十五の時だ。下谷に親類があって、其処に来ている頃、その直ぐ近くの家に其男それもいて、遊びに行ったり来たりしている間に次第にそういう関係になったの。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)