兀々ごつごつ)” の例文
下ってまた上り、一小隆起を踰えて、兀々ごつごつした嶄岩の上に攀じ上ると、そこが大沢岳の頂上であった。
大井川奥山の話 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
間口二間奥行二間半ほどの、木造小舎である、この小舎の後ろから、穂高岳は、水の綺麗に澄んでいる池を隔て、鉄糞かなくそで固めたように、ドス黒く兀々ごつごつとして、穹窿形きゅうりゅうけいの天井を
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
振り返れば、間の岳(赤石山脈)や、悪沢岳の間から、赤石山が見える、そうして千枚沢の一支脈は、兀々ごつごつした石の翼をひろげて、自分たちの一行を、遥かに包もうとしている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
また兀々ごつごつとした石の筋骨が、投げ上げられて、空という空を突き抜いている、そうして深秘な碧色の大空に、粗鉱あらがねを幅広に叩き出したような岩石の軌道が、まっしぐらに走っている。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
花がひらくのと同じで、万象の色が真の瞬間に改まる、槍と穂高と、兀々ごつごつした巉岩ざんがんが、先ず浄い天火に洗われてかたちを改めた、自分の踏んでいる脚の下の石楠花しゃくなげ偃松はいまつや、白樺のおさないのが
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ピークにはもう登らないと決めたらしく、一と塊まりに小さく黒くなって休んでいる、私は兀々ごつごつした岩角に一人ぼっちに突っ立って、四方を見廻わした、未だ午前である、硫黄岳の硫烟は
槍ヶ岳第三回登山 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
花崗かこうの山に上りつけた人は、一枚岩の、兀々ごつごつとした石山を想像するであろうが、常念岳は大天井岳と同じく、石片の乱次しだらなき堆積である、幾百千枚も積んで、上へ行くだけ痩削そうさくして来る
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
日本アルプスでは、花崗岩や石英斑岩のような、堅硬で兀々ごつごつした火成岩塊に、火山岩の柔和な曲線や、斉整せる輪廓を配合して、ここに世にも稀なる線と色彩のシムフㇹニイを奏でている。
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
弱い紺色に日を含んだ萌黄色が、生暖かい靄のように漂っている、どこからか鶯が啼く、細くうすッぺらな、鋭利な刃物で、薄い空気の層を、つん裂いて、兀々ごつごつとした硬い石壁に突きあたる。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)