しあは)” の例文
いまね、この御所を見てゐて、急に、何だか、現在の方がしあはせのやうな気がしたンだ。——やぶれたものの哀れさは、美しい。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
お菊が手輕に殺されて自分へ疑ひが來さうもないとわかると、今度は主人の治兵衞をねらつた。治兵衞を殺せば、お加奈がしあはせになると思ひ込んだのだらう
西行が白峯紀行にも書いた「——清涼せいりやう紫宸ししいの間、百官にかしづかれ給ひ後宮後坊のうてなには、三千の美翠びすゐかんざし、あざらかにて、おんまなじりに懸らんとのみしあはせし給ひし……」
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
屡〻となげかひといふわざによつてしあはせな進歩を遂げても來た
伊勢物語など (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
何一つしあはせはなかつたが、ぼろきれのやうになつて死んでしまつた。寝棺へをさめて、釘を打つ時の、あの別れぎはがいまになつて、深い感傷を呼んだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
「馬」の圖でなくてまことにしあはせであつた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
約束を破つたやうになつたが、君が、しあはせになるまで、僕はどうにでもする。真心こめて考へる……。君は好きなンだよ。それでゐて、どうにも一緒になれないのは、僕の弱いところなンだ。
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)