争闘あらそい)” の例文
高輪の学窓の方で、捨吉が自分の上に起った目上の人達の争闘あらそいを考えて見る頃は、その年の秋も暮れて行った。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
清き正しい心をもって飽くなき肉慾にくよくと戦うことです。少なくとも「今日の問題」は、所詮しょせん、霊と肉との争闘あらそいです。しかして、明日の課題は、霊によって肉を征服することです。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
「そこはね、みんながおたがいに友だちになって、悲しい事も争闘あらそいもしない所です」
恵那山中の雪の夜は、深沈しんちんとしてけ渡り、群がりそびゆる山々は眼前に口を開けている巨大な谷を囲繞いにょうしてすくすくと空に背を延ばし、下界の人間の争闘あらそいを嘲笑うがように静まっている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
せせぐり泣く枕許まくらもとで泡鳴はそういった。そんな事をさせてはならないと、二十八歳の処女は泣いたのだ。とはいえ、二ツの思想が同棲している以上、この争闘あらそいはくりかえされなければならない。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もっとも、政党の争闘あらそいなどはなるべく避けている方で、祖先から伝わった業務の方におもに身を入れた。達雄の奮発と勉強とは東京から来た三吉を驚かした位である。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
争闘あらそいつづける泡鳴を恋い慕った。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
そして、自分等夫婦も、何時の間にかこんな争闘あらそいを始めるように成ったか、と考えた時は腹立しかった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)