上気のぼせ)” の例文
旧字:上氣
そこでかれはだれもかれを信ずるものがないのに失望してますます怒り、憤り、上気のぼせあがって、そしてこの一条を絶えず人に語った。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
高島田に園子の嫁入衣裳を借り着したおしもは嬉しさからすっかり上気のぼせてしまって、廊下のあたりや勝手元をうろうろ歩きまわったりした。
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
美しい素顔を上気のぼせさせて、ハアハア息をはずませ乍ら物を言う様子は、眼の前へパッと咲いた桜のような感じのする娘です。
死の予告 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
眼の縁の上気のぼせは、発熱のせいかも知れないと、そっと触ってみると、肌はしっとりと汗ばんで、思いの外冷えきっている、そのつめたさが感じられる。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
智恵子は一歩ひとあし毎に顔が益々上気のぼせて来る様に感じた。何がなしに、吉野と昌作が背後うしろから急足いそぎあし追駆おつかけて来る様な気がする。それが、一歩ひとあし々々に近づいて来る……………
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
「いえ——少し上気のぼせたようですけど、別にまでは——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
群集は今しも売買に上気のぼせて大騒ぎをやっている。
糸くず (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
「お富はすっかり上気のぼせているから、河内屋へ帰るにしても、佐吉と一緒でなきゃ嫌だって言うに決っていますよ。油屋は派手にはやっているが、内輪は火の車だ。河内屋へ乗込むとなれば、あんな世帯は猫の子にやっても惜しくはありませんぜ」
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)