丁髷ちよんまげ)” の例文
千代松といふ人は頭髮あたま丁髷ちよんまげつてゐた。幾ら其の頃でも、村中で丁髷はただこの千代松の頭の上に見らるゝだけであつた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
親分の勘兵衞は五十二で、鰐口わにぐち丁髷ちよんまげはせたやうな醜男ぶをとこだが、妾のお關は二十一、き立ての餅のやうに柔かくて色白で、たまらねえ愛嬌のある女だ。
明治の御維新で、今まで頭のうしろに結んでゐた丁髷ちよんまげをとつてしまひました。また街道をば、人を乗せて通つたかごがなくなり、そのかはりに人力車が走るやうになりました。
百姓の足、坊さんの足 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
頑固の看板と人から笑はれてゐた丁髷ちよんまげを切りもやらぬ心掛が自然そのわざの上にあらはれて、豪放無類の作りが名を得て、関東関西の取引の元締たる久宝寺町の井筒屋、浪花橋の釘吉くぎよし松喜まつき
名工出世譚 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「あんたんとこみたいな薄茶はごわへんので。」と千代松は、稍亂れかけた丁髷ちよんまげを氣にするやうに撫でながら言つた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
幇間だいこも兼ねてゐる、跛者びつこ眇目めつかちで、リゴレツトに丁髷ちよんまげを結はせたやうな中年者でした。
「千代さんは仲間ちゆうげんみたいやなア。村一番の良い衆(金持ちの事)とは見えん。」と、定吉は、油のコテ/\した千代松の丁髷ちよんまげが、午後の日影に光るのを見てゐた。
天満宮 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
今では村中で唯一人の丁髷ちよんまげが、結立てで餘計大きく見え、髯を剃つた痕が蒼々としてゐた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)